ダークにスタート、とぼけたパペット、ほっこりなラスト、「ぼくの名前はズッキーニ」


ちょっと衝撃的なスタートで幕を上げる人形アニメ、「ぼくの名前はズッキーニ」は、フランス語の映画で、製作国としてはフランス・スイスの両国にまたがります。人形劇、パペットのストップモーションアニメは、どちらかというと明るめな作品が揃ってます。ティム・バートンの手がけるものでさえ、テイストはダークであっても、物語的にはポップな感じで作られているのがほとんどです。
不穏なストップモーションと言えば、ヤン・シュヴァンクマイエルが知られていて、シュルレアリスムの代表格でもあります。ただ、シュヴァンクマイエルの作風は不快感というキーワードで語られることも多く、その点でこの「ぼくの名前はズッキーニ」は様相が違います。キャラクターは、まん丸お目目の可愛らしい顔が並びます。動きも、ストップモーションの良さを生かして、滑らかにしすぎず、コマ撮り感を大切にしているように思います。

あらすじ的な流れ

いきなりですが、主人公ズッキーニの境遇が可哀想です。父親のいない母子家庭です。それでも愛のある家庭なら何も問題ないのです。可哀想なのは母親から受けている仕打ちです。と言っても、放任主義です。でも気に触るとキレられます。可哀想です。
事故が起きます。ズッキーニは警察の厄介になります。警部がズッキーニを保護施設に連れて行きます。フランスののどかな風景が刺さります。
新参者のズッキーニは、リーダー格のシオンにいじめられます。けれど、みんな寂しい境遇は一緒、やがて仲間として迎えられます。そこに現れた新人カミーユは、女だからってシオンに屈することはありません。あっという間に一目置かれるカミーユ。ズッキーニはカミーユが気になって仕方ありません。
みんなで雪山に行って楽しく過ごしたりもしますが、カミーユには底意地の悪い叔母がいます。叔母の目的はカミーユを引き取る事でもらえる助成金です。カミーユのことなんてこれっぽっちも考えていません。
一方で、警部はいつもズッキーニのことを気にかけています。ズッキーニを自分の家に招待したりします。物語は、カミーユを叔母の手から救い出そうというところでクライマックスを迎えます。

明るい姿の根底に流れる重いテーマ

不幸な環境の少年少女の物語といえば、古くから「オリバー・ツイスト」「大いなる遺産」などあって、人々に好まれるテーマだったりします。「小公女」なんかもそうですが、虐げられたり、不幸な生い立ちにある子達を見るのは切なくて、それがやがて幸せをつかめば、こちらの心も鷲掴みされるってなものです。
感動の涙を搾り取りやすいテーマと言えるのではないでしょうか。
この映画も、お先真っ暗なズッキーニが幸せを掴む話ではありますが、パペットアニメということもあり、牧歌的な明るさが漂っていつつ、それと境遇の暗さというギャップが独特な感情を生んでいて、アニメ大国のジャパンではあまり見かけないヨーロピアンな作風という気がします。
勝手な想像ですが、ジャパニメーションの場合はギャップがあるとすると、萌えキャラが凄惨なバトルを繰り広げるという方向に行くのでしょう。
人形は昔からどこか暗さを持つことが指摘されていて、怪談系の話にも登場しますし、「チャイルド・プレイ」のチャッキー程になれば、もはやヒーローレベルです。ズッキーニたちはあんな邪悪な笑みは浮かべないですけど。

子供の見方と大人の見方

このアニメは明らかに低学年をメインの視聴対象はしていないものの、教訓的な側面からすれば、低学年の子にも見てもらいたい作品となっています。導入部分を乗り越えられれば、と言いますか、そこで起こっていることが真に理解はできなくてもストーリーを追うことはできます。トラウマになるようなシーンもなく、子供たちの活躍を楽しめるお話です。
でも、大人が見ると、印象は大きく違ってくると思います。ほっこりとしつつ、しっとりと泣けるはずです。ポイントは、薄情な大人と愛ある大人の描き分けで、童話と同じ作り方になっていることがわかります。
そう、これは現代版の童話なのだと、今気づきました。

子供の頃から親しんでいた童話が、本当は怖い物語だったと知って衝撃を受けるように、世の中を知ることで見え方が変わることは珍しくありません。と、言いつつも、教訓くさいお話としてではなく、まずはズッキーニやシオン、カミーユをはじめ、周りの仲間たちとの友情譚として大いに楽しむので十分です。

革新的で伝統的なアニメーションの世界

ショートアニメを作ってきたクロード・バラス監督の初長編ですが、長編と言っても必要最低限のシーンでコンパクトにまとめた66分のストーリーは、あれよあれよという間にエンディングへと駆け抜けていきます。
アニメといえばセル画だった時代から、今ではほとんどがコンピューター上で作られるようになって、3DCGのものが主流です。3DCGのキャラクター容姿の源流はむしろパペットアニメの方に近くて、考えてみれば今の時代はセルアニメとパペットアニメが合流した時代なのかもしれません。制作の手間を思えばCGの方が便利だとは思いますが、一コマ一コマ撮影していくストップモーションアニメの風味も是非残していってほしいものです。

作品情報

原題:MA VIE de COURGETTE(2016)
監督:クロード・バラス(Claude Barras)
声の出演:ガスパール・シュラター(Gaspard Schlatter) シクスティーヌ・ミュラ(Sixtine Murat)

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