「15時17分、パリ行き」に乗れば彼が来る


この映画は、実際に起きた事件を基にして作られています。宣伝ではテロ事件が主題のようになっているものの、観た印象としては友情物語で、事件筋がメインではありません。丁寧に折り重ねられたストーリーがクライマックスへと向かっていく語り口のうまさが、じわじわと気分を盛り上げてくれます。

監督はクリント・イーストウッド

クリント・イーストウッドは俳優として超一流で、監督としても超一流という類い稀な存在と言えます。スポーツ界において、名選手が必ずしも名将となれるとは限らないように、役者として名を馳せたからといって、監督でもまた大成するのはごく一部と言っていいでしょう。
そもそも論になりますが、スポーツは体力の問題などによる引退があり、やがては指導者の道へと進むのが既定路線の一つだったりします。一方の俳優業と監督業というのは、年齢を重ねても続けられますし、どちらか一方を、あるいは両方を同時にすることもできます。どちらかで顔と名前を売れば、もう一方へのオファーが舞い込むこともあります。

俳優が監督作品を残すにあたって、一本であれば傑作を残せるかもしれません。いわゆるまぐれ当たりや、ビギナーズラックと呼ばれる力が働いたようなものです。これを何作も続けて、イーストウッドのようにアカデミー賞の常連となれば、いよいよ本物です。
オスカーノミネートされればいいわけではありませんが、一定数以上の心に響いたことは確かです。イーストウッドは音楽も堪能で、ピアノによるジャズ音楽を披露したり、映画音楽での演奏などもしています。
日本で言えば、北野武のマルチぶりは世界レベルで、日本ではお笑いタレントのビートたけしとして、欧州では映画監督の北野武で熱狂的なファンがいますし、ハリウッド大作ではキアヌ・リーヴス主演の「JOHNNY MNEMONIC」やスカーレット・ヨハンソン主演の「GHOST IN THE SHELL」で主要キャラを担って出演しています。

イーストウッドの超略歴

日本でも高い知名度があるクリント・イーストウッドが、最初に世に認知されたのはテレビドラマの「ローハイド」という西部劇だとされています。このドラマは、1959年に放送が始まったもので、「Rollin’ Rollin’ Rollin’~」と歌われる主題歌も有名です。まあ、見たことありませんが。残念ながら。
このドラマ以前にも出演作はあったものの、ほとんど端役に過ぎず、副隊長を演じた「ローハイド」でようやくブレイクしたのです。
そして、この作品がきっかけとなって、セルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」という西部劇に立て続けで出演することとなります。マカロニウェスタンの三部作は大ヒットし、寡黙でタフガイな主人公像は、イーストウッドをスターに押し上げます。

1967年、早くもイーストウッドは自らの製作会社を立ち上げて、映画作りの方へも手腕を発揮していきます。当時は日本の映画界でも、黒澤明や三船敏郎、勝新太郎など、独立製作プロを作ることがありました。今でこそ日本では監督や俳優が製作会社を作るのは珍しくなりましたが、ハリウッドではトム・クルーズのクルーズ/ワグナープロダクションズや、ブラッド・ピットのプランBエンターテインメントなど、映画スターによる製作会社は今でも作られています。
さておき、イーストウッドは自身のマルパソプロダクションズで数多くの映画を製作し、また監督もしていくことになります。有名になれば名前貸しに近い形で製作総指揮になったりすることも多い中で、イーストウッドはほとんどの作品に深く関わっています。
製作作品が賞レースに絡むことも頻繁で、オスカーレースでも多数のノミネートをされ、1992年の「許されざる者」と2004年の「ミリオンダラー・ベイビー」では監督賞を受賞しています。

イーストウッドの作風

物語には創作されたものと実話ベースのものとがあります。実録モノは、ドキュメンタリーか再現によっても変わってきます。ドキュメンタリーはノンフィクションですが、再現されたり、あるいは再構築された実話は、ある種のフィクションとして描かれることもあります。
などとまあややこしいことを言っていますが、要するに映画の場合は、ドキュメンタリー映画でない限り、多少なりのフィクション要素があると言いたいわけです。このさじ加減によって、私のようにイージーな観客はまんまと涙を搾り取られたりしたことも一度や二度ではありません。
イーストウッド監督はといえば、2000年代の後半くらいから、圧倒的に実話ベースの映像化が増えています。「父親たちの星条旗」「インビクタス」「J・エドガー」「ジャージー・ボーイズ」などなど、挙げていけばここ最近はほとんど全てと言ってもいい勢いです。
さらに「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の軌跡」そして今作「15時17分、パリ行き」のように、ヒーロー的な行動をとった人を描くことが増えています。
その描写は、過剰に感動を煽るのではなく、じんわりと心に染み込むような、どこか淡々とした進め方をしていきます。酸いも甘いも噛み分けて、熟練の域に達しているといいますか、渋みってやつです。

まさかの本人主演

イーストウッドは監督をしている作品に主演することができる人です。これは、実を言うとかなり大変なことで、自分でカメラの前に立ちながら、作品全体を演出していくのですから、相当な集中力が求められます。はずです。経験したことないので本当のところはわかりませんが。
ただ、イーストウッドともなれば、まあできるだろうな、とは思わせてくれます。

ところが、今作の出演者は、映画の基になったテロ事件に遭遇した人を本人役で使ったのですから驚きです。主演を始め、メインの役でです。英語がそこまで堪能ではないので、この人たちの演技のクオリティーがどれほどのものなのか、確かなところは不明です。朴訥とした感じは受けますが、いわゆる棒読みの芝居をしているのか、細かなニュアンスまでは聞き取れませんでした。
確かなのは、丁寧な演出のお陰で、映画に没入して、クライマックスには感情を揺さぶられました。このような、観客に先入観を与えないためにトップ俳優を使わない手法は、かつてスピルバーグも用いたことがあります。

超一流の演技で映画を構築するもよし、素人をキャスティングして究極のリアリティーを再現するもよし、というわけです。

作品情報

原題:THE 15:17 TO PARIS(2018)
監督:クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)
出演:スペンサー・ストーン(Spencer Stone) アンソニー・サドラー(Anthony Sadler)

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