「ニンジャ バットマン」が戦国の世で暗躍して歴史を変える?

ニンジャバットマン
バットマンが戦国時代にやってくるというしびれるシチュエーションが魅力の本作。日米共同製作ながら、アニメスタッフは日本のチームが担っています。ジャパニメーションとアメコミの融合に、アニメならではの表現がプラスされて、ワールドワイドな映画に仕上がっています。

あらすじには先の方までの展開が記されています。予備知識を入れずに鑑賞したい人はご注意ください。

あらすじ

ゴリラ・グロッドの開発した時空跳躍装置によって戦国時代の日本に跳ばされてしまったバットマン。そこは第六天魔王と称されるジョーカーの支配する尾張国だった。一瞬先に飛ばされたキャットウーマンたちも含め、ジョーカーが来てからすでに2年の月日が経っているという。
その間に日本では、ジョーカーだけでなく、ペンギンが甲斐国、ポインズン・アイビーが越後国、デスストロークが陸奥国、そしてトゥーフェイスが近江国を支配していた。
仲間と合流したバットマンは城にある時空跳躍装置を奪還すべく乗り込むが、ジョーカーとハーレイ・クインの計略にはまってバットモービルなどのウェポンを失って窮地に陥る。彼を救ったのは忍の者たちで、バットマンこそ伝説の救世主と信じていた。
ジョーカーという共通の敵を前に、ゴリラ・グロッドと手を組むバットマンだが、ジョーカーを倒したもののグロッドに裏切られてしまう。再起をかけるバットマンの元にロビンたちが集まる。
得意の能力でペンギンら各国の城主を支配下に置いたグロッドは、日本を我が物にしようと動き出す。近代兵器を失ったバットマンは、戦国時代を戦い抜くことができるのだろうか。

素晴らしきアニメの世界

アニメーターの絵柄だとかデザインだとかによらず、日本のアニメはどことなく一目でそれとわかる雰囲気を持っています。外国のものも「スポンジ・ボブ」「パワーパフガールズ」のようにいかにも海外のアニメだなという雰囲気があります。
アメコミ調と呼ばれる絵柄もあって、「ニンジャ バットマン」などはまさにそれです。それでありながら、日本製のアニメなのです。つまり、一見すると日本のアニメらしくないのです。
世界観は完全に日本です。日本を舞台にして、しかも戦国時代は文化的にも洋風要素がありません。違和感だらけのはずの融合でも、バットマンやキャットウーマン、ジョーカーやハーレイ・クインたちが活躍しておかしくないのがアニメのいいところです。
また、日本を感じさせるのは舞台設定だけではなく、背景に和柄を溶け込ませるなどの要素も大きく作用しています。文字や巻物などの小道具も演出に気が利いていて、特にジョーカーの顔を漢字に落とし込んだデザインなどは出色と言えますし、細部まで楽しめる作品なのです。

DCエクステンデッドユニバース

バットマンが掲載された雑誌群は、スーパーマンを擁するDCコミックスであり、他にも多くのヒーローを誕生させています。「アイアンマン」「スパイダーマン」などで有名なマーベル・コミックとは双璧を成す関係で、しばしば比較対象となります。両社ともに歴史は古く、紆余曲折の中で数多くのヒーローを描いており、日本とは違って一つのヒーロー作品を複数の原作者と作画家で作り上げるのが特徴です。
映画界においても、これらのいわゆるアメコミヒーローものは人気で、今のようにCG表現が成熟する前から着ぐるみや特撮を用いつつ撮影されてきました。現在は迫力満点の画作りでコミックさながらの描写が可能となったことで一部に粗製乱造に近い面もあり、シリーズ化のはずがいつの間にか打ち切られていたケースも増えています。

マーベルのヒーローがスーパーパワーで戦うのに対して、どちらかというとDCのヒーローたちは人間くさい戦いをします。スーパーマンこそ宇宙人ですが、バットマンに至ってはただの金持ちのボンボンという能力しか持っていません。
また、ヒーローとして悩むこともしばしばで、バットマンも子供の頃の恐怖心との戦いから誕生したキャラとして、活躍後もことあるごとに鬱っぽく洞窟内にこもってしまいます。スパイダーマンも多少悩みますが、所詮はティーンエイジャーの悩みレベル、とは言い過ぎかもしれませんが。
DCの世界ではヴィランたちもただの犯罪者に留まらず苦悩しています。だからなのか、ヴィランがヒーローと手を結ぶことが珍しくありません。マーベルで言えばソーの弟であるロキが多少そんな感じです。

映画でのシリーズの垣根を越えてヒーローやヴィランが入り乱れるのは、DCもマーベルも同様です。大ヒットを連発している「アベンジャーズ」「X-MEN」など、クロスオーバーするマーベル・コミック作品群をマーベル・シネマティック・ユニバースと呼ぶように、「ジャスティス・リーグ」を中心とするDCコミックスのクロスオーバーをDCエクステンデッド・ユニバースと呼びます。
残念ながら、映画メディアにおいてはどうしても暗さの漂うDCユニバースよりも、マーベルユニバースの方が多くの人々に観られているようです。今回の「ニンジャ バットマン」のような試みは、DCの奥深い世界観を知ってもらう良い切っ掛けになればと思います。
ただ、発想こそ、バットマンmeets戦国時代ながら、実際に戦う相手は同じく時空を超えてやってきたゴッサムの面々なので、ストーリーとしてはいまいち絵柄以上の東洋感がないのが残念ではあります。話が面白くないわけではありません。むしろ、劇団☆新感線でネオ時代劇とも言うべき「髑髏城の七人」などを手がけてきた中島かずきの脚本は、壮大な話を小気味よくまとめ上げています。
忍びの軍団との絡みはおまけ程度で、あまり忍者色が強いとは言えません。ただ、ジョーカー達からすればバットマンは黒くて憎いあんちくしょうであり、暗躍という言葉が似合いすぎるほどです。その意味では黒装束の忍者との融合性は驚くほど高いものとなっていて、この際はスケアクロウを俵と融合させるとか、どのヴィランを登場させるのがいいのか色々と想像してしまいます。

ハーレイ・クインについて少々

「スーサイド・スクワッド」で映画にも本格的かつ鮮烈に登場して以降、日本でもキャラクター人気の上がっているハーレイ・クイン。ジョーカーのパートナーとして、道化師の装束をしている女悪党です。
実は、オリジナル設定は才女という彼女の独特なヴィランネームにはちゃんとした意味があります。まずすぐに浮かぶのはハーレクイン・ロマンスなどのハーレクインでしょう。これはそのまま道化師という意味で、フランス語が語源になります。
本名の Harleen F Quinzel と、語源の Harlequin とを引っ掛けてジョーカーが Harley Quinn と名付けました。トランプでは道化デザインになることが多いジョーカーのパートナーとしてうってつだったわけです。

作品情報

原題:BATMAN NINJA(2018)
監督:水崎淳平
声の出演:山寺宏一 高木渉

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