「万引き家族」の絆の強さと危うさとパルム・ドール

万引き家族
世界三大映画祭の最高賞獲得はわかりやすいニュースです。でも、わかりやすい映画ではありません。起きていることは明解でも、どう見終わればいいのかがわからないのです。何かを思わずにはいられない映画です。

以降、ネタバレとなる内容を含みますので、鑑賞前に知りたくない方はご注意ください。

あらすじ

スーパーで息子・祥太(城桧吏)に万引きをさせている父・治(リリー・フランキー)。寒空の帰り道、二人はアパートの外で一人遊ぶ少女・ゆり(佐々木みゆ)を見かけ、ほんの親切心から連れ帰り食べ物を分け与える。
ゆりの体に残る虐待の跡とアパートから聞こえてくる激しい喧嘩の声を聞き、両親に返すのをやめることにする。治の家には祥太の他、祖母の初枝(樹木希林)と妻の信代(安藤サクラ)、そして信代の妹の亜紀(松岡茉優)がいて、ゆりは六人目の家族として暮らすことになる。
治は日雇い労働者で工事現場などに行っているが、甲斐性がなく、仕事を休むことばかり考えている。信代はクリーニング工場でパートをしているが、景気は下向きで勤務時間を減らされてしまう。一家の主な収入源は初枝の年金であり、治と翔太が万引きをすることで日用品を手に入れていた。
犯罪に手を染めながらも、皆で分け合い、心は満ち足りた生活を送る六人。ただ、女子高生の格好で下着姿を見せつける風俗店で働く亜紀だけは、そのお金を自分のものとすることを許されていた。

治は現場で怪我をしたのをきっかけに、完治しても仕事に行くのをやめる。信代はリストラにあって職を失う。それでも一家は海水浴に出かけ、屈託のない顔で笑いあうのだった。
ある日、初枝が寝たまま死んでしまう。一家は事実を届け出ず、初枝の遺体を床下に埋めて年金を受給し続けることにする。五人家族となってしまったものの、今まで通りの生活が続いていく。
治はゆりにも万引きを指南して、今では祥太とゆりで万引きに出かけるようになっていた。しかし、店主に見逃されていたことを知った祥太は、初めて自分の行いに疑問を持つようになる。嬉々とした様子で車上荒らしを行う治の姿を見て、ますます疑念を深める祥太。
祥太が万引きに失敗して捕まったことで、一家は警察の捜査を受けることになる。そして、誰一人として血のつながりがなかった一家の正体が白日の下に晒されることになるのだった。

世界に通じる日本映画とは

同じメジャー作品でも、日本映画はハリウッド映画の1/100程度の予算しかかけることができません。それも超大作と呼ばれるものでようやくそのレベルです。一般的な日本映画になると、1/500の予算も珍しくはありません。
とはいえ、ハリウッドのド派手なアクション映画はそれとして、低予算だろうと映画史に残るような作品を撮ることはできるはずです。以前から欧米にまでファンを持つ監督として、黒沢清北野武の名前は有名でしたし、是枝裕和もまた淡々とした日常系の物語の名手として世界的な評価を受けています。

是枝監督といえば、市井の人々の生活をリアルに切り取るイメージが強く、主に子役に関しては台本よりもシチュエーションに放り込んで、自由な対話形式の演技をさせることが知られています。多少の文化の違いがあっても、人の日常生活に洋の東西はありません。
食べること人とのことお金のこと生きていくこと、喜びや悩みや憤りなどは誰しもが理解できます。でも、それだけでは観客の胸を打つことは難しくなります。ともすれば退屈な2時間で終わってしまうからです。この問題を乗り越えた名匠として真っ先に名が浮かぶのは、小津安二郎ではないでしょうか。

パルム・ドールの威力

2004年の監督第四作「誰も知らない」で柳楽優弥がカンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を最年少受賞したことで、是枝監督の名は映画ファン以外にも広がりました。それ以前の三作目まではいわゆる単館系の作品だったものが、興行収入も9億円を超えて大ヒットとなりました。
ちなみに、現在の日本では、およそ100万人を動員することになる興行収入10億円が、大ヒットの目安となっています。儲けがあるかどうかは製作費によるので一概には言えません。さらに、宣伝文句ではとりあえず公開日早々から大ヒット御礼と謳うのは常套句です。基準を示さなければどんな映画も大ヒットと言えなくもありません。

さておき、是枝監督に関しては興行収入32億円の「そして父になる」以降は話題作が続き、前作「三度目の殺人」では日本アカデミー賞も受賞しています。ただし、作風が明朗快活になったわけではなく、カタルシスのあるクライマックスを持たない作品も多くあります。
「万引き家族」もまた、その終わり方は多くの観客が望むものではないかもしれません。一応の結果は示されていても、結論は描かれていないからです。40億円越えとも言われる興行収入を上げるほどに観客を得たのは、間違いなくパルム・ドールの効果があったからでしょう。
これはとても素晴らしいことだと思います。年に1本観るか観ないかの人たちが映画館に足を運ぶことになったわけで、映画館が賑わえば、映画作りに弾みがついて、予算も少しは上がるからです。一作品だけでは難しくても、二作、三作と続いていけば、ハリウッドの1/500、よりは多い製作費を得られるかもしれません。

日本映画のパルム・ドール獲得は1997年の今村昌平監督作品「うなぎ」以来で、その他のパルム・ドール受賞作品は以下の通りです。

・1983年「楢山節考」今村昌平監督
・1980年「影武者」黒澤明監督
・1954年「地獄門」衣笠貞之助監督

結局、どういうことなのか

データ的なことよりも、みどころはどこなのかと問われれば、やはりパルム・ドールを受賞する作品がどのようなものか、好奇心から見てみるのでいいのだと答えます。審査員の主観とはいえ、得難い賞を獲得したのは事実です。
この映画を端的にまとめれば、愛を必要としている人たちが寄り集まって共同生活をしていたけれど破綻が訪れる、ということだと思います。
大人からするとある種の理想的な生活ですし、子供も幸せそうです。でも、子供が疑問を抱いたのが正しいのでしょう。単に犯罪行為が悪いだけではなく、遅かれ早かれもっと大きな破綻が訪れるからです。ここに居る親は親になりきれない子供です。
だとすると、この物語は「誰も知らない」ともシンクロする気がしてならないのです。

作品情報

原題:万引き家族(2018)
監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ

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