「快盗ルビイ」が可愛ければ今日も世界は平和みたい


小泉今日子が思いっきりキョンキョンだった時に撮られた正しいアイドル映画です。80年代はソロアイドルの時代なので、主演を決めるのは簡単でした。今はグループアイドル全盛なので、活躍させなくてはいけない人が多くて大変そうです。

あらすじで最後までのネタバレはしていないものの、終盤までの流れはわかるので知りたくない人はご注意ください。

あらすじ

母親と二人暮らし、メーカー勤務の徹(真田広之)が住むマンションの上の階にスタイリストの留美(小泉今日子)が引っ越してくる。いきなり荷物の整理を手伝わされる徹。それからも留美のペースに乗せられっぱなしの徹に対して、留美は自分をルビイと呼べと言ったかと思うと、本当は犯罪者で泥棒をしているとうそぶく。
強引に仲間に入れられてしまった徹は、ルビイの立てた計画に従って輸入食品を扱うお店の老主人を襲うことにする。銀行に収めるお金が入ったカバンをすり替える作戦は成功するが、現金は幾らも入っていなかった。
次の計画は銀行強盗。しかし、徹が持っていくメモを間違えたためにあえなく失敗してしまう。宝石詐欺をしても相手にされず、計画は失敗続き。でも、いつしか徹はそんなルビイとの日々が楽しくなっている。

いよいよ大勝負に出ることにしたルビイは、富裕層が集まるマンションに侵入して盗みを働くことにする。見事潜入には成功したものの、徹がバスルームに閉じ込められるハプニングが起きる中、住人が帰宅してしまい逃げ出すのがやっと。
ルビイの恋人(陣内孝則)と鉢合わせた徹は関係を打ち切ろうとするが、ルビイは勢いに任せて書いてしまった恋人宛の別れの手紙を取り戻して欲しいと頼むのだった。

輝きをスクリーンに刻み込むために

「快盗ルビイ」をジャンル分けすれば、クライムサスペンスになるかもしれません。そこにコメディが加味されてくるものの、最も端的に表すなら正しいアイドル映画に他なりません。
何をもってアイドル映画なのかと申せば、キョンキョンの可愛さを焼きつけることがすべての映画だからです。今でこそ演技派との評価も受ける小泉今日子、つまりキョンキョンも、この映画の公開時は正統派かつトップアイドルの一人でした。
キョンキョンの圧倒的な魅力の元に成り立っている映画で、キャラクターのリアリティは二の次です。ただ、これはこの当時の、いわゆるバブリーな時代の映画には珍しくないことで、よく言えば何事にも勢いがあったのです。

ルビイに振り回される徹を演じるのは真田広之です。ご存じJAC出身のアクションスター、かと思いきや「リング」で印象を新たにして、と思ったらハリウッドで活躍している真田広之です。
今作では、母子家庭で社会人になっても甘えたところがあって、会社では女性のアプローチにも気づいているんだかいないんだか、情けなくも女心をくすぐるというか、母性本能を刺激するキャラクターを演じています。
いかにもルピイにいいように手玉に取られていながら、ルビイを嫌な女に見せないのは実は徹のキャラが絶妙だからだと思われます。

ちなみに、真田広之は「アベンジャーズ」シリーズの最新作「アベンジャーズ / エンドゲーム」に出演しています。まさか「ウルヴァリン SAMURAI」で演じたシンゲン役ではないでしょうから、サノスの粛清した世界でどう立ち回るのか、今から楽しみです。

盗みなどの犯罪とライトコメディの相性

現実世界で泥棒と鉢合わせたら恐怖でしかないですが、映画に出てくる怪盗は泥棒や盗賊とは一線を画す素敵な人が多くて困ります。まさに快盗であり、ダークヒーローみたいなものです。アルセーヌ・ルパンや孫のルパン三世は有名ですし、キャッツ・アイもいました。
アルセーヌ・ルパンは怪盗でありながら紳士として描かれ、名探偵ばりの推理を披露します。一方でルパン三世やキャッツ・アイは盗みを話の主体に置きつつ、コメディ色の強いストーリーが魅力です。おそらく、いくら義賊であろうと盗みは犯罪なので、多少なりともコミカルにすることでバランスをとるのでしょう。

直接的に怪盗を演じたわけではないものの、オードリー・ヘプバーンもライトコメディにまで才能の一端を見せた女優です。夫の盗みが原因で命を狙われる「シャレード」では、七変化とばかりにジバンシィの衣装を着替えつつコミカルでサスペンスフルという難しい作品に花を添えています。
邦題が「おしゃれ泥棒」となった、贋作がテーマのウィリアム・ワイラー監督作品でも、オードリーはコメディエンヌの力量を発揮しています。ウィリアム・ワイラーは「ローマの休日」の監督としても知られ、落ち着きのある上質なコメディを演出する名匠です。


オードリー・ヘップバーンの言葉 (だいわ文庫)

おまけの情報

「快盗ルビイ」は、ヘンリー・スレッサーというアメリカの小説家が書いた「快盗ルビイ・マーチンスン」を原作にしています。
大きく違うのは、原作のルビイは男だということです。日本の映画ではむさ苦しかったり、うだつが上がらない男を主人公にせず、女性主人公に置き換えてしまうことがままあります。
「チーム・バチスタの栄光」の主人公・田口は、原作の男性設定と異なり女優の竹内結子が演じています。ただし、このシリーズに関しては、のちに伊藤淳史がドラマ版からの流れで田口を演じた映画「チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像」もあります。
チーム・バチスタのシリーズに関しては、ロジカルモンスターの二つ名を持つ白鳥も、原作の小太り設定を変え、実写化においては阿部寛仲村トオルという長身で男前な配役がされています。

話を戻しますと、原作の「快盗ルビイ・マーチンスン」では、ルビイに振り回されるのは従兄弟になります。強引に付き合わされる計画は突拍子もなく無謀で、到底成功するとは思えないものです。失敗ばかりではありますが、どこか憎めず楽しんでいるのは映画と同じです。
アイドル映画になって大きく改変されたのかといえば、意外と原作のテイストには忠実にできているのです。
原作者のスレッサーは、あのアルフレッド・ヒッチコックと交友関係にありました。ヒッチコックは、スリラーやサスペンスで味付けされた犯罪ものが得意な監督でした。そう知るとスレッサーが書いている小説の作風も、どこかヒッチコックの映画作品らしさを感じてしまいます。
スレッサーの作風は幅広く、SFだったり不条理感が漂うこともありつつ、ユーモアを交えたものも得意としていました。


【ショートショート】最期の言葉 (ヘンリー・スレッサー)

ルビイの部屋には大きなハンフリー・ボガートのパネルが飾ってあります。ハンフリー・ボガートは「カサブランカ」「マルタの鷹」「麗しのサブリナ」など、多くの代表作があります。ここで使われているのは「田舎町」(原題:IT ALL COME TRUE)という犯罪コメディに出演した時の写真です。

最後に、「快盗ルビイ」でチーフ助監督をしていたのは平山秀幸です。後に名作ファミリー映画「学校の怪談」シリーズを撮ったり、日本アカデミー賞ほか各賞を受賞した「愛を乞うひと」を撮ることになります。

作品情報

原題:快盗ルビイ
監督:和田誠
出演:小泉今日子 真田広之


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