「泥棒成金」の真犯人をいち早く見抜けたら大したもんだ


アルフレッド・ヒッチコックの映画です。それだけでもう見るに値します。とは言い過ぎですが、この作品は見るに値します。わけは後ほど申します。ケーリー・グラントとグレース・ケリーの出演作で、ともにヒッチコック作品には複数出ています。

以下のあらすじは真犯人こそ伏せているものの、終盤までのネタバレはしています。ストーリーを知らずに鑑賞したい人はご注意ください。

あらすじ

フランス沿岸部・リビエラで宝石強盗が多発する。その手口は戦前にパリ界隈を騒がせたジョン・ロビーのそれと酷似していた。彼は軽業師の如き身のこなしで盗みを働くことから、猫に見たてたキャットという二つ名を付けられていた。
警察はレピック警視の指揮で即座に事情聴取に乗り出すが、ジョンにあっさりと撒かれてしまう。ジョンは情報を仕入れようと、昔の仲間であるレジスタンスの一味がいるレストランにやってくるものの、一味はジョンに疑いの目を向ける。
潔白を証明するには警察より先に犯人を見つけるしかないと決意するジョン。

レストランのオーナーから情報を仕入れたジョンは、仲間の娘・ダニエルの手引きでカンヌへと向かう。そこにいたのは保険会社のヒューソンで、ジョンは強盗による保険金の支払いでの大損を抑えるためにも自分に協力するべきと要請する。高価な宝石の持ち主リストがあれば、次の犯行を予測して犯人を捕まえられると考えたのだ。
リストを手に入れたジョンは、バカンスに来ていたアメリカの富豪スティーブンス家の母娘に接触する。その晩、彼女たちの泊まっていたホテル内で盗難事件が起きるが、ジョンは相手にせず予定通り次のターゲットになりそうな邸宅の下見に向かう。
成り行きからジョンに同行することになった富豪の娘フランシーは、ジョンこそキャットだと言ってのける。ジョンが否定してもお構い無しのフランシー。その晩、二人はいい雰囲気になるが、母親の宝石が盗まれてしまう。

フランシーはジョンの仕業だと勝手に警察を呼ぶが、娘の世間知らずを直したい母親はジョンを逃す。身を隠したジョンはヒューソンの力を借りて、犯人を追い詰める作戦を実行する。かくして犯人は現れ、格闘の末に死亡してしまう。犯人は、ダニエルの父であり、レストランでソムリエをしていたフッサールだった。

一件落着と幕を引こうとするレピック警視の前に現れたジョンは、フッサールが義足だったと突き付け、彼に軽業師のような強盗はできないと告げ、真犯人を逮捕するべきだと協力を要請する。そして、真犯人を罠にかける場として、富豪たちが集まる仮装パーティーの会場を指定する。
今、最後の大捕物が始まる。

ヒッチコックのサスペンス力

アルフレッド・ヒッチコックの代表作を挙げろと言われれば、「サイコ」「鳥」が真っ先に挙がるかもしれません。それ以外にも「裏窓」「北北西に進路を取れ」など有名な作品がゴロゴロとあります。
50本以上の長編映画を監督したミステリーやサスペンスの第一人者でありつつ、作風とは一転してお茶目な雰囲気を持っているのも魅力です。とにかく観客を映画に引き込ませるのが巧みで、ハラハラドキドキが止まりません。

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「泥棒成金」でも、いきなりおばさまが悲鳴を上げるアップからスタートします。何が起きたのかと思います。あっという間に監督の掌の上です。かと思えば、効果的で静かな夜のシーンの中を、盗賊らしき影が横切ります。いえ、これは猫でした。ただし、この後出てくるキャットと呼ばれた盗賊を暗示しているのは明らかです。
静のシーンの後は動のシーンが待っています。カーチェイスです。崖の側でカーブが連続する難所を、スピードを上げながら車が疾走します。
ヒッチコックが巧みなのは画作りだけではありません。ストーリーにも仕掛けがあり、思わせぶりなミスリードを大胆に展開します。もう明らさまに怪しい男が何度も出てきます。
もう一人、外せない男も出てきます。ヒッチコックです。彼は自分の映画にカメオ出演として顔を出すことで知られていて、観客は毎回どのシーンで登場するのかを心待ちにしています。

ざっとポイントを挙げるだけでもこれだけだけの要素が詰まっている「泥棒成金」ですから、冒頭に述べたように見るに値するというわけです。

グレース・ケリーというアイコン

美しきヒロイン、グレース・ケリーについても述べたいところではありますが、彼女については他の作品でもじっくり取り上げる機会がある気がします。ですから、ここでは思い切りシンプルな紹介に留めます。

グレース・ケリーはアルフレッド・ヒッチコックのアイコン的存在で、幾つかの映画に出演しています。もちろん、他者の作品でも才能を発揮していて、ジョージ・シートンが監督した「喝采」ではアカデミー賞の主演女優賞に輝いています。
20代半ばの絶頂期にモナコ公国の大公と結婚してグレース公妃となります。子供にも恵まれて幸せな生活を続けたものの、52歳の時に運転中の脳梗塞が原因で事故死してしまいます。奇しくも、「泥棒成金」でグレースが車を走らせたシーンの近くでのことです。

彼女が使っていたことで有名になったエルメスのバッグがケリーバッグと名前を変えたのも、よく知られた逸話です。

邦題について

日本で公開される洋画の中には、日本独自の邦題を付けられることが多々あります。確かにわかりづらい英語や、そもそも馴染みのない言語の場合は致し方ないところもあります。
ただ、中にはあまりに無意味なタイトルに変えられてしまうことがあるのも確かです。それがヒット要因になったことも皆無ではないので、ケースバイケースと言ってしまえばそれまでです。

この「泥棒成金」の場合、かつて泥棒をして稼いで財を成した男が主人公なので、あながち間違いではありません。でも、ストーリーからすれば、原題の「泥棒を捕まえろ」の方が合っている気がします。
いや、やっぱり少々野暮ったい感じはしてしまいます。ここはもう潔く「トゥ・キャッチ・ア・シーフ」でいいのではないでしょうか。1950年代なら「泥棒成金」の耳障りが良かったとしても、今ならスティーヴン・スピルバーグ「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のような例もあることですから、慣れてしまえば違和感ないはずです。

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作品情報

原題:TO CATCH A THIEF(1955)
監督:アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)
出演:ケーリー・グラント(Cary Grant) グレース・ケリー(Grace Kelly)

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