ドタバタしながら頭脳戦で成功を収める「摩天楼はバラ色に」


摩天楼と書いてニューヨークと読みます。
世界中がポップでバブリーだった時代に、一攫千金を夢見てビジネスワールドに出てきた片田舎の青年の物語です。
恋に仕事にサクセスしていく予定調和が気持ち良いパターンの映画は、80年代の王道と言えるでしょう。

サクセスストーリーですから成功は約束されているものの、紆余曲節にハラハラしました。
ネタバレありのあらすじなので内容を知りたくない人はご注意ください。

あらすじ

カンザスの青年ブラントリーは、ビジネスマンの世界に憧れてニューヨークに出てくる。
しかし、就職予定だった会社が乗っ取りにあい、初日でクビになってしまった。
遠い親戚である大企業の社長ハワードに会い、なんとか仕事をもらうことに成功するブラントリー。
配属先は社内に郵便物や資料を配る係で、スーツを着る必要すらない状況にブラントリーは落胆する。

配達中、ある部署で目にした会社の事業方針に疑問を抱いた彼は、独自にプランを立ててみることにする。
同じ頃、社内でクリスティという女性に一目惚れするブラントリーだが、彼女は重役の一人で、高嶺の花だった。

ある日、急遽代役を頼まれて運転手をすることになったブラントリーは、乗せていた重役の妻ヴェラに迫られ、強引に関係を持たされてしまう。
すぐにヴェラがハワード社長の妻であると知ったブラントリーは絶望するが、ヴェラはどこ吹く風で気にしない。
クリスティにアプローチしても相手にされないブラントリーは一計を案じ、空いている役員室に陣取って重役に成りすまし、重役会議にも参加する。
配送係を続けながらの綱渡りの一人二役だが、徐々に成果を発揮するようになるブラントリー。
彼のオリジナリティー溢れるプランは斬新ながら的を射ており、クリスティもいつしかブラントリーに惹かれ始めていた。

実はクリスティは社長の愛人だったのだが、一方で社長夫人のヴェラはブラントリーにご執心。
そんな四角関係の中、社長宅でパーティーが開かれることになり、四者四様の恋の鞘当てが繰り広げられる。
そして、とうとう互いの秘密がばれ、ブラントリーは会社をクビになってしまう。

時同じくして、会社は乗っ取りの危機に瀕していた。
大ピンチを前にクビになったブラントリーが会議室に現れる。
ブラントリーは、ウィンウィンな合併自体には反対せず、会社の経営陣の交代を告げた。
その上で、ハワード社長だけでなく、乗っ取り企業の社長をも追い出すべく、敵対的買収を仕掛けるというブラントリー。
ブラントリーは密かに相手企業の株を買い、買収の足がかりを作っていた。
会議室の面々は相手にしないが、創業者の娘で大株主、新たな会長となったヴェラが出てきて、経営をブラントリーに任せると発表する。

ブラントリーはクリスティと交際し、思い描いた夢の生活を手に入れたのだった。

エイティーズの特異性

80年代はポップカルチャーの時代と言ってもいいと思います。
洋楽界ではマイケル・ジャクソンマドンナらを中心としたポップソングが覇権を握り、邦楽では松田聖子中森明菜らを筆頭にしたアイドルが黄金時代を迎えます。
さらに、日本国内ではコアなアニメなどが、一部のオタクのものから大衆のものへと広がっていった時代でした。

映画界においてもポップな作風が、洋邦問わずに数多く見られるようになります。
80年代後半はその流れが成熟して、バブルへと向かってゴージャスさが増し、ドタバタと明るく、仕事や恋愛のサクセスストーリーを描く作品がヒットします。
日本では特にホイチョイ・プロダクションズによる「私をスキーに連れてって」「彼女が水着に着替えたら」などが時代を映し出した作品となっています。

主人公のキャラクター

洋画界で80年代を代表するスターの一人は、本作の主役であるマイケル・J・フォックスでしょう。
1985年に第1作が公開された「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の三部作で、マイケルは押しも押されぬハリウッドスターとなります。
あまり知られていませんが、マイケルは1982年から89年まで続いた長寿テレビドラマ「ファミリータイズ」で人気の役者でした。

「摩天楼はバラ色に」で彼が演じたブラントリーはヤッピーです。
今ではあまり耳馴染みのなくなった言葉ですが、ヤッピー = yappie は「young uraban professionals」の意味合いで、直訳すると「若い都会のプロ」となります。
この場合のプロは専門職の中でも、医師、弁護士、金融アナリストなどのいわゆるエリートのことです。
つまり、ヤッピーとはニューヨークに代表されるような都会で若くしてエリート職に就いている人を指します。
60年代、エコロジストや反政府活動の自由人のような振る舞いをしている人をヒッピーと呼びました。
ヤッピーはこれをもじった言葉ですが、ポジション的には正反対な人になります。

監督は幅広い作風の名匠

本作の監督はハーバート・ロスです。
バレエダンサーや舞台演出を経て映画監督になった人で、最初の代表作となった「愛と喝采の日々」はそんな経験を生かしたバレエ界の物語です。
1977年に公開された「愛と喝采の日々」は、アカデミー賞で主要10部門ノミネートの快挙を成し遂げます。
残念ながら受賞は逃したものの、80年代に数多くの作品を世に送り出す足がかりとなりました。

中でも、1984年公開の「フットルース」は、「トップガン」のメインテーマソング「デンジャーゾーン」で知られるケニー・ロギンスの歌曲も大ヒットしました。
さらに、本作を挟んで1989年には戯曲の名作「マグノリアの花たち」も監督します。
「マグノリアの花たち」には名女優サリー・フィールドシャーリー・マクレーンダリル・ハンナらに混ざって、前年に映画デビューしたジュリア・ロバーツが出演しています。
ジュリア・ロバーツは、この作品でいきなりアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされました。
そして、翌年に出演した「プリティー・ウーマン」の大ヒットによって、ジュリアはハリウッドのスター女優となったのです。

ところで、「摩天楼はバラ色に」のヒロインはヘレン・スレイターですが、この人はオーディションで「スーパーガール」の主役を勝ち取って映画デビューしました。
スーパーガールは、DCコミックスの中でスーパーマンやバットマンほどは知られていないかもしれません。
知名度が微妙な上に、DCコミックスにはスーパーウーマンというキャラクターもいます。
馴染みがないと少しややこしいかもしれませんが、スーパーガールはスーパーマンのいとこという設定です。

話が逸れました。
ハーバート・ロス監督は、ダンサブルな作品からコミカルな作品、あるいはしっとりとドラマチックな作風など、多彩なジャンルを演出できる優れた監督なのです。

おまけの話

映画の中でマイケル演じるブラントリーはオフィスの空き部屋に潜り込んで仕事を始めます。
このエピソードはスティーブン・スピルバーグ監督が、新人時代にユニバーサルのスタジオで空き部屋をオフィスにしてしまったというエピソードが基になっています。

作品情報

原題:THE SECRET OF MY SUCCE$S(1987)
監督:ハーバート・ロス(Herbert Ross)
出演:マイケル・J・フォックス(Michael J. Fox) ヘレン・スレイター(Helen Slater)

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