「ザ・ファーム 法律事務所」に出ていたかもしれないあのスター


ジョン・グリシャム原作のサスペンス映画で、トム・クルーズがFBIとマフィアの間で翻弄されます。順風満帆に思えた人生設計が崩れそうになりながらも、逆転を狙うトムの魅力に溢れた一本であり、豪華な共演者たちにも注目です。

あらすじはラストまで記しています。どんでん返しのミステリーなのでネタバレをせずに見たい人は注意してください。

あらすじ

ハーバードの法律学科でトップ5の学力を誇るミッチは、大都市の大手法律事務所からいくつもの破格のオファーを受けるが、年収1000万円を超える額を提示してきたメンフィスの事務所に就職することにする。
家や車も提供され、規模は小さいながらもアットホームな事務所だと喜ぶミッチ。だが、ミッチの妻で教師をしているアビーは、ミッチの歓迎パーティーの席で見た他の妻たちの様子にどこかおかしな雰囲気を感じていた。

最初の仕事で指導係のエイヴァリーと、ケイマン諸島の富豪ソニーの節税を担当することになり、準備を始めるミッチ。前途洋々に見えた暮らしだが、同僚の先輩二人がケイマンでダイビング中に船の爆発事故で死んだことから、不穏な空気が漂い始める。
ある夜、ミッチの前に現れたFBI捜査官のタランスは、同じ事務所で今回を含めて10年間に4人もが不審な状況で死んでいると告げる。
事務所の裏が気になりながらも仕事に没頭するミッチだが、アビーは毎日遅くまで仕事を続けるミッチに不満を感じ始めていた。

いよいよケイマンに乗り込みソニーと商談するエイヴァリーとミッチ。エイヴァリーが苦戦する中、ミッチはソニーを納得させて契約延長を勝ち取る。
商談の後、港で先輩を乗せて爆発事故を起こした船の会社の社長を見つけたミッチは、事故の際に表には出ていない不審な人物も乗船していたことを知る。また、エイヴァリーの部屋の一室で隠された書類の山を目にする。
その夜、パーティーを抜け出したミッチは、男ともめていた綺麗な女を助けて不倫してしまう。

帰国したミッチは、仕事関係などには存在を隠している兄のレイを訪ねる。レイはボクサーだったが、正当防衛が認められず故殺罪によって刑務所にいた。レイはミッチを心配し、刑務所内で知り合った元警官で探偵をしているエディを紹介する。
エディに事務所の不審死に関する調査を依頼したミッチだが、程なくエディは二人組の男に殺される。それを隠れて目撃していたエディの秘書のタミー。

再び接触してきたFBI捜査官タランスの導きで司法省の高官と密会したミッチは、事務所を牛耳っているのがマフィアのモロルト一家であり、事務所ぐるみでマネーロンダリングをおこなっていると聞かされる。
内通者になるよう説得を受けるものの、FBIのいいなりになれば弁護士の仕事を辞めて一生マフィアの復讐に怯えながら証人保護プログラムの下で暮らすことになる。だからと言ってこのままマフィアの手先として裏の仕事に手を貸して、事務所ごとFBIに逮捕されてしまうのも嫌なミッチは苦悩する。
事務所によって自宅も監視や盗聴をされていると聞かされたミッチは、先手を打ってFBIが接触してきたことを報告する。ただし、FBIが疑っているのは脱税に関する裏帳簿だと嘘をつく。

私立探偵レイの秘書だったタミーが、エディの仇を討ちたいとミッチに密かに会いに来る。彼女の助けを借りて事務所の書類をコピーしていくミッチ。
そのタイミングでミッチは、念願の司法試験に合格して正式な弁護士となる。
程なく、事務所の用心棒にケイマンでの不倫の写真をネタに余計なことはするなと脅されたミッチは、不倫の事実をアビーに打ち明けることにする。動揺して実家に帰ることを考えるアビー。
そんな中、なんでもない依頼人の仕事をこなしていたミッチは、そこから事務所のおこなってきた水増し請求に気づく。水増し請求そのものは些細な不正だが、郵便詐欺と組み合わせることで現状を打開できるヒントを得る。

一計を案じたミッチはFBIのタランスに、マネーロンダリングの証拠の提出と交換で兄の釈放とおよそ1億5千万円を要求する。
アビーを実家に返すことにして危険から遠ざけた上で、証拠書類奪取の計画を実行に移すミッチ。しかし、計画の要であるエイヴァリーのケイマンでのダイビングが中止になったことを知ったアビーは、ミッチに内緒でケイマンへ飛び、自分に気のあるエイヴァリーの誘いに乗ったふりをして秘密書類を盗み出す。
一方、兄のレイは釈放され、FBIの尾行を振り切るとミッチに連絡し、タミーと新たな生活を送るべく軽飛行機で去っていく。
事務所はようやくミッチのやろうとしていることに気づき、暗殺者をケイマンに送るが、エイヴァリーは若き日の理想を思い出し、アビーを逃す。
証拠を揃えたミッチは事務所の追跡を振り切り、FBIをも出し抜いてモロルト一家のドンに直談判へ行く。ミッチは、彼らの秘密は守秘義務として墓場まで持っていく代わりに、自分に手を出さないように契約する。

モロルト一家の証拠を得られたかったことに激怒するFBIのタランスにミッチが告げる。モロルトの悪事を助けているのは法律事務所のマネーロンダリングであり、これを潰していくのが大切だと。
タランスは、そのための証拠の書類をモロルトに渡したミッチの矛盾を非難する。
だがミッチは、事務所が各依頼人に対しておこなっている水増し請求に絡んだ郵便詐欺で立件すればいいと言う。一件一件は微罪でも、全てを足し合わせれば1250年の禁固刑と250万ドルの罰金という米犯罪史上屈指の罪状になると。

かくして、弁護士の資格を得たまま、自由の身となったミッチはアビーと新天地へと旅立つのだった。

ジョン・グリシャム原作

見ている間は何が起きるのかとハラハラドキドキして、ラストのどんでん返しに唸りつつ喝采をおくりたくなるハッピーエンドが待っています。
綿密に練られたプロットは、難しい法律関係の物語に適度なアクションを絡めて紡がれます。あらすじをまとめてみると、様々な伏線がうまく収束していくのがわかります。
だからといってまじめ一辺倒ではなく、トム・クルーズの主演する映画らしく、エンターテインメント性も満載です。

原作を書いたのはベストセラー作家のジョン・グリシャムです。法廷がらみのサスペンスを得意としていて、原作として10数冊が映画化されています。
「ザ・ファーム」は彼の最初の映画化作品となりますが、同じ1993年にもう一本、ジュリア・ロバーツデンゼル・ワシントンが共演した「ペリカン文書」も公開されています。
「ペリカン文書」ではジュリア・ロバーツ演じる学生が政界を揺るがすスキャンダルに直面します。法曹界を目指す若者が思わぬ事件に巻き込まれながら、助けを借りて反撃に出るという共通点があります。

他にも1997年の「レインメーカー」が、ジョン・グリシャムの原作として有名です。この作品も豪華で、監督はフランシス・フォード・コッポラで、主演はマット・デイモン、そして共演にダニー・デヴィートジョン・ヴォイトミッキー・ローク、さらに「ジョーズ」で知られるロイ・シャイダー「ロミオ+ジョリエット」クレア・デインズなど、一線級が顔を揃えています。

スターの共演

若き弁護士ミッチを演じたトム・クルーズと、彼の指導係となるエイヴァリーを演じたジーン・ハックマン。二人は言うまでもなくハリウッドのスターです。
昔からスターの共演作品では名前の順列が問題になることがあります。「タワーリング・インフェルノ」スティーブ・マックイーンポール・ニューマンの争いが有名ですが、「ザ・ファーム」でもちょっとした問題が起きています
ミッチが主人公なのでトム・クルーズが優先されるものの、ジーン・ハックマンはタイトルよりも先、あるいは上に名前を載せることを希望しました。一方のトム・クルーズの契約では、タイトルの先あるいは上に出す名前はトム一人となっていたのです。
それならばと、ジーン・ハックマンはプロモーション段階のすべての素材から自分の名前を取ってしまいます。結果として多くの人はジーン・ハックマンの出演を知らずに、映画を見てから驚いたと言われています。
ちなみに、映画の本編においてはトム・クルーズの次にジーン・ハックマン、そしてタイトルとなっています。

今作では探偵の秘書タミーを演じたホリー・ハンターが、アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされています。とても個性的な役で、見た人の印象に強く残るものの、実は2時間34分ある映画の中でホリー・ハンターの出演時間は6分に満たないのです。
これだけの短時間でアカデミーノミニーは、最短の部類に入ります。
惜しくも受賞は逃したホリー・ハンターですが、なんと同じ年の「ピアノ・レッスン」ではアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、こちらで見事に受賞しています。

「ザ・ファーム」には他にもアカデミー賞に関係する役者として、「フレンチ・コネクション」主演男優賞「許されざる者」助演男優賞を受賞したジーン・ハックマンがいます。
ノミネートされたことがある人にまで広げてみれば、ミッチ役のトム・クルーズにFBIタランス役のエド・ハリス、兄レイ役のデヴィッド・ストラザーン、事務所のボス役のハル・ホルブルック、探偵エディ役のゲイリー・ビジーといった具合に、芸達者の集まった豪華な顔ぶれであることがわかります。

ミッチ役の候補にはチャーリー・シーンの名前も挙がっていたと言いますが、彼が演じていたケースを想像してみるのも一興です。
さらに、ケイマンの海岸でミッチが不倫することになる女性の役で、まだ名の売れていなかったハル・ベリーがオーディションを受けていたと言います。

作品情報

原題:THE FIRM(1993)
監督:シドニー・ポラック(Sydney Pollack)
出演:トム・クルーズ(Tom Cruise) ジーン・トリプルホーン(Jeanne Tripplehorn)

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