女子高生 × 麻雀を一見ミスマッチと思いながら見てみると、かなりストレートな青春映画で驚かされます。連続ドラマの続きではあるものの、未見でも、さらには麻雀のルールすら知らなくても全く問題なく楽しむことができるのはすごいことです。
ほとんどが麻雀卓を囲んでの物語で、トーナメントの様子が描かれていきます。勝負の結果よりも少女たちが闘う姿を楽しむものとはいえ、ラストまでネタバレしているので知りたくない人はご注意ください。
あらすじ
世界中で麻雀が大人気になり、日本でもプロの雀士は憧れの的で、女子高生の部活動で麻雀の全国大会がおこなわれている。
清澄高校の宮永咲(浜辺美波)は、強豪校にいる姉に会うために、全国大会に進出すべく麻雀部に入部。個性的な部員たちと時に対立しながらも絆を深めていく。
そして合宿を経て、その繋がりはより強固なものとなって、いよいよ地区予選である長野県大会が始まるのだった。
というところまでがドラマ版のお話で、映画の冒頭で一気にダイジェストしてくれるため、なんとなく下敷きとなっているストーリーの雰囲気はわかります。
大会は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人による団体戦。順調に初戦と二回戦を突破した清澄高校は決勝へと駒を進める。
決勝で卓を囲むのは、前回の県大会覇者である龍門渕l高校、前々回まで5連覇していた風越女子高校、部設立2年目の鶴賀学園の4校。
先鋒戦は風越女子が圧倒的にリード、次鋒戦で清澄は最下位に落ちてしまう。中堅戦で清澄の竹井部長(古畑星夏)は悪手待ちから和了ってトップに躍り出る。
副将戦に登場した清澄の原村(浅川梨奈)は、ネット麻雀の世界で伝説と噂される打ち手だが、実戦でその強さを発揮できずにいた。しかし、部活の合宿などを経て弱点を克服し、副将戦では独走状態に入る。
だが龍門渕高校の龍門渕部長(永尾まりや)が強さを見せ、続いて鶴賀学園の東横桃子(あの)が影の薄さを生かして和了り続ける。それでも最後は原村が真価を発揮して清澄はトップを守る。
いよいよ大将戦。咲は必殺の嶺上開花(リンシャンカイホウ)を連発するが、龍門渕の天江衣(菊地麻衣)が海底撈月(ハイテイラオユエ)を出して反撃。一度は鶴賀学園の加治木(岡本夏美)の作戦で天江の流れを止めたかに見えたが、天江は本領を発揮して独走状態に入る。
風越女子の池田(武田玲奈)がハコになる危機を、咲が差し込んで救う。そして鶴賀の加治木も意地を見せ、勝負は大詰めに。
それでも海底撈月を繰り出して逃げ切るかに見えた天江だが、咲はオーラスで数え役満を和了って、天江から点数を奪い取って優勝する。
勝負は決したが、負けたチームも部員同士の絆を深めて前を向いて進んでいくのだった。
がっつり麻雀映画
麻雀を知らなくても雰囲気で十分に楽しめるのが本作の良いところです。とはいえ、おおよそでもルールを知っておいた方が、より楽しめるのは確かです。あらすじをまとめておいてなんですが、表面上は麻雀用語が並んでいて何が何だかわかりません。
大雑把に言えば、麻雀はトランプのカードのように、模様と数、あるいは絵札にあたる文字などで種類分けされた牌(パイ)を決められた形に揃えて役を作る早さを競います。
揃え終わると和了(アガ)りです。漢字にするとややこしいですが、すごろくなどでゴールするのをあがるというのと同じです。
細かいことはさておき、最後の大将戦で咲と天江衣(アマエコロモ)が繰り出す技だけは知っておくといいかもしれません。
麻雀牌は一枚二枚と数えるのが通例ですが、ここでは分かりやすく1つ2つと表記します。
まず、咲の嶺上開花とは、相手が直前に捨てた牌と自前の同じ柄の牌3つを合わせるために、槓(カン)と宣言して牌を4つにまとめます。これをするとカードゲームの山札にあたる牌山から牌を1つ引いてこられるのですが、その引いた牌によって役が完成することを言います。
奇跡とまでは言わなくても、珍しいことであるのはわかると思います。咲はこの嶺上開花を得意としていて、かなりの頻度で技として繰り出してきます。
衣の使っている海底撈月とは、自分に牌山の最後の1つを引く順番が回ってきて、それを引いたために役が揃って和了れることです。
4人が順番で引くわけですから、最後の1つを引く運と、それで役が揃うというダブルの運が必要になります。
衣に関しては運などではなく、神がかり的な引きの強さで海底撈月を成立させています。
現実的にはあまり見かけない技を高頻度で繰り出しあって戦っているので、いかにも漫画的と言えなくもありません。確かにご都合的ながら、決して超常的な必殺技ではないのです。
能力で牌を入れ替えたり、時間を止めてズルしたりなどではなく、ルール上は現実に起こってもおかしくはないギリギリの線を描いているリアリティが、この物語の面白さだったりもします。
ルールを知らなくてもエキサイティング
簡単に咲と衣の技の説明をしてみたものの、やはりなんのことだかわからない人も少なくないと思います。ただ、この作品は細かいルールなどは分からなくても楽しめるのは上記した通りです。
まずは、バトル展開の熱さが挙げられます。
淡々と麻雀卓を囲みながら牌を打つ描写から、勝負どころになると一気に視覚効果を用いて盛り上げてきます。
主人公もライバルも、勢いのいい時と窮地に陥る時が用意されています。ピンチからどう巻き返すのか、麻雀というよりもヒーローもののバトルを見るようです。
さらに、ライバルたちとの爽快な関係があります。
ドラマからの映画化とはいえ、対戦相手は初顔合わせになります。それでも主要な対戦校に関しては、ざっと過去のいきさつをダイジェストしてくれるので、あっという間に思い入れることができます。
高校球児たちの裏側を紹介する熱闘甲子園のように、誰しもにドラマがあって棒人形ではないことがわかるのです。
青春を賭けて勝負に挑んでいる姿に、勝敗を超えた思いがこみ上げてきます。
そして、起死回生の必殺技の存在です。
前述したように、必殺技と言っても現実離れしたものではありません。実際のルールに則った麻雀を打っているわけですが、何やらすごいことが起きていることは伝わります。
得意の戦法が封じられ、ライバルが点数を伸ばすなか、自分を信じて再び勝負に出ます。困難を超えて勝利を掴みにいく姿は胸を打ちます。
恋愛要素のない高校生もの
原作の漫画では、清澄高校の麻雀部に一人の男性部員がいて咲を部に誘います。そこから青春ラブストーリーが始まるのかと思えば、そうではありません。基本的には映画に描かれているように、ライバルたちとの麻雀勝負のストーリーです。
男女の恋愛がない代わりに、多少の百合的要素が散りばめられています。ただ、これにしても最近は実写でも多くなったBL系の話ほどではなく、GL映画とはなっていません。
やはり、青春部活映画と呼ぶのがふさわしく、近年のメジャー系作品だと競技かるたに青春を賭ける「ちはやふる」も、恋愛より部活動に重きを置いていました。
美少女の共演
男っ気のない映画である分、美少女たちが大挙して出演しているのがポイントです。現在では個別に主演を務めている人もいます。
ざっと見るだけでも、主演の浜辺美波は言うに及ばず、清澄の浅川梨奈に古畑星夏、龍門渕の永尾まりやと柴田杏花、風越女子の武田玲奈や他にも注目すべき人だらけです。
同じく浜辺美波が主演した「賭ケグルイ」も、サブキャストにまで興味深い面々が顔を揃えています。
「賭ケグルイ」の浜辺美波は咲とは一味違った狂気を見せていて、キャラクターの幅を見せてくれます。
続編は
本作公開の翌年、2018年にはスピンオフ的続編である「咲 -Saki- 阿知賀編 episode of side-A」が公開されています。奈良の阿知賀女子学院を中心にした物語で、やはり原作漫画から深夜ドラマを経ての映画化です。
この映画で最強の高校として登場する東京の白糸台高校には、咲の姉である宮永照がいて、浜辺美波が一人二役で演じているのですが、ここでも咲と同一役者とは思えない存在感を醸し出すという演じ分けをしています。
阿知賀編はインターハイが戦いの舞台です。咲のいる清澄高校も登場しているものの、トーナメントの反対のブロックのため映画にはほとんど絡んできません。
主人公の高鴨穏乃は、咲と違って勝ちにいくタイプの力ではなく、牌の山を支配して相手の思惑を外す感じで自滅を誘います。だからなのか、ライバルとの勝負におけるカタルシスの高さとしては一作目に譲ります。
ただ、余計なアレンジをせず一作目をストレートに踏襲した作りなので、「咲 -Saki-」のファンは安心して見られると思います。
作品情報
原題:咲 -Saki-(2017)
監督:小沼雄一
出演:浜辺美波 浅川梨奈
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