命を賭けて仕事をする「ザ・シークレット・サービス」

かつて大統領を守れなかった男は、老いて巡ってきたリベンジのチャンスをものにできるのか。
殺しのプロと護衛のプロによる静かな戦いは、互いにしかわからない連帯感を生みつつも、決して相容れることはないのです。

あらすじはラストまでネタバレありで記しています。視聴前に知りたくない人はご注意ください。

あらすじ

ベテラン捜査官のフランク・ホーリガンは、新人の相棒アル・ダンドレアと組んで囮捜査をして、偽札造りのグループに接触する。
アルはシークレット・サービスのエージェントだとバレて殺されそうになるところを、フランクの機転で窮地を脱した。
自信をなくすアルを慰めるフランク。

フランクはマクローリーという男の調査を命じられて部屋を訪れる。
通報してきた大家の手引きで留守宅に入ると、壁一面に貼られた大統領暗殺に関する切り抜き。
マクローリーの出自を調べると、その人物像は偽造されたものであることが判明する。
再びマクローリーの部屋を訪れたフランク。
しかし、部屋はきれいに空となっていて、ただ一つ、壁にケネディを護衛するフランクの姿が写った写真が貼られていた。

夜、フランクの部屋にマクローリーから電話がかかってくる。
彼は改めてブースと名乗り、かつてケネディの護衛をしていながら目の前で暗殺を許したフランクの過去を知った上で、大統領暗殺を宣言した。

シークレット・サービスの大統領護衛チームと会議をするフランク。
リーダーのワッツは、独断専行で扱いづらいと噂されるフランクと初めから反りが合わない。
今は囮捜査をしているフランクだが、頼み込んで大統領の護衛チームに入れてもらう。

再びブースから連絡が入り、逆探知をしたが阻止されてしまう。
ブースの実力を認めたフランクたちシークレット・サービスは、大統領の首席補佐官に選挙キャンペーンの中止を提案する。
大事な選挙戦での票集めの必要から、首席補佐官は予定変更を認めない。

女性エージェントのリリー・レインズを気に入り、話しかけるフランクだが、皮肉屋の癖が出てレインズの気分を害してしまう。

ブースの新たな連絡から逆探知に成功したフランクたち。
ブースは逃してしまうが、指紋の採取に成功し、FBIに鑑定を依頼する。
しかし、そこで出てきた該当結果はなぜかもみ消され、フランクたちに知らされることはなかった。

ブースは大統領への大口寄金をすることで、支持者として大統領参加のパーティーへの出席権を得る。

徐々にレインズとの仲を深めていくフランク。

風邪をひいたフランクは意識が朦朧とし、キャンペーン会場で風船の割れる音を銃声と勘違いして、会場にパニックを起こしてしまう。
その場は収まるが、首席補佐官の怒りを買い、フランクは護衛チームを外される。
以前にマクローリーの部屋を捜査した時の手がかりを辿り、ブースの正体がミッチ・リアリーという男だと突き止めたフランクとアル。

リアリーの家に行ったフランクとアルは、身分を隠したCIAのエージェントと鉢合わせてあわや殺し合いになる。
リアリーは元CIA局員で、政府の暗殺仕事を請け負っていた超一流の暗殺者だった。
CIAはリアリーの腕を恐れ、同僚を送り込んでリアリーを殺そうとして返り討ちにあった。
国に裏切られたリアリーが大統領の暗殺を計画したのが真相だった。
組織の汚点を隠そうとしていたCIAだが、全てを明かしてシークレット・サービスとともにリアリーの逮捕を目指す。
居所を突き止めてリアリーを追い詰めたフランクだが、あと一歩のところで逃した上に、アルを殺されてしまう

フランクはふとしたきっかけから、リアリーの残した証拠が銀行の電話番号だと知って銀行に向かう。
その銀行では最近、窓口の行員が何者かに殺されていた。
ついにフランクは、大口の寄付をして今夜の大統領が参加する集会に出席している人物の中にリアリーがいることを突き止める。
会場に駆けつけたフランクの前で、手製のプラスチック銃を大統領に向けるリアリー。
フランクは身を挺して大統領を護る。
リアリーはフランクを盾に逃げようとするが、フランクの機転で失敗し、最後はビルから落下して死ぬ。

全てを終え、フランクはレインズを連れて家へと帰る。
留守電を再生すると、そこにはリアリーからの遺言ともとれるメッセージが残されていた。

大統領暗殺

現役の大統領が暗殺されるというのは映画以上にショッキングな出来事です。
ジョン・F・ケネディよりも前、アメリカ大統領として初めて暗殺されたのはエイブラハム・リンカーンです。
リンカーンは観劇中に銃で撃たれ、当時の医療では救いようがなく、翌朝に亡くなりました。

リンカーン大統領の時代は、南北戦争の最中で、未承認ながらも南北に国が二分されていました。
アメリカ合衆国が現在の形に落ち着いてからは、ケネディ大統領が最初で、今のところ最後の暗殺された大統領となっています。

大統領の暗殺はあまりにセンセーショナルですが、映画の中で語られているように、暗殺をほのめかす脅迫状や暗殺予告は年間におよそ1400件もあります。
シークレット・サービスの元にまで回される情報でその数なのですから、全てを捜査しきれなくても仕方ありません。

日本ではあまり広くは知られていませんが、未遂事件としてはロナルド・レーガン大統領も銃弾を受けて命を落としかけたことがありました。
銃弾を受けたのが胸部の一発で、その後の処置も迅速におこなえたことから一命を取り留め、3週間で公務に復帰しています。
この銃撃の様子は、テレビカメラによって中継されていました。

レーガン大統領を撃ったジョン・ヒンクリーは、女優のジョディ・フォスターの熱狂的なファンでした。
彼が好んで観ていたのが、ロバート・デ・ニーロ主演の「タクシードライバー」です。
この映画でジョディ・フォスターは、12歳の売春婦を演じています。

暗殺の謎

テレビ中継に始まり、スマホの時代になった今では、数々の衝撃的な瞬間が映像に収められています。
しかし、ケネディ大統領の時代の人々の手にあるのはまだフィルムカメラが主流で、手軽に撮れるものではありませんでした。

エイブラハム・ザプルーダーという男性の撮影した8mmフィルムの映像は、ケネディ大統領暗殺に関して流される最も有名な動画です。
ただし、映像はこれだけではなく、他にも何人かが撮影をしていました。
ザプルーダー・フィルム以上に決定的な映像を撮ったのではないかと言われる女性が目撃されていながら、その女性と映像の所在は未だに明らかになっていません。

そもそも、この歴史的犯行の犯人すら確定的ではありません。
逮捕されたリー・ハーヴェイ・オズワルドの単独犯とするには、あまりに不可解な状況が多いからです。
他にも銃撃をおこなった犯人がいるとする複数犯説は根強いですし、CIAなどの国家機関が関わっていたとされる説も信憑性があるように思われます。
オズワルドが逮捕からわずか2日後にテレビ中継される前で暗殺されたのも謎を深めた要因です。

この謎に迫ろうとする映画ではオリバー・ストーン監督の「JFK」があって、CIAが関与したとされる説を広く知らしめたのはこの映画だと言われています。
また、本筋ではないものの、マイケル・ベイ監督の「ザ・ロック」では、ニコラス・ケイジがケネディ大統領の真犯人が記されたマイクロフィルムを入手します。

シークレット・サービス

映画の冒頭で、クリント・イーストウッド演じるフランクは偽札に関する囮捜査をしています。
大統領を警護するシークレット・サービスが偽札を追っているのは、この組織が元々財務省の管轄だったからです。
南北戦争の時代に偽造通貨を捜査するために創設されて、合衆国の中でも州を跨いで権限を擁する財務省の機関として大統領の警護もおこなってきました。
つまり、歴史的にはフランクのおこなっていた捜査こそ、シークレット・サービスの主軸だったのです。
当初から防諜も任務にあり、囮捜査もお手の物と言えます。

シークレット・サービスは、映画が作られた8年後、アメリカ同時多発テロを機に新設された国土安全保障省に移管されました。

作品情報

原題:IN THE LINE OF FIRE(1993)
監督:ヴォルフガング・ペーターゼン(Wolfgang Petersen)
出演:クリント・イーストウッド(Clint Eastwood) ジョン・マルコヴィッチ(John Malcovich)

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