「オンリー・ザ・ブレイブ」で1000℃超の山火事現場に取り残された人たち

災害現場にはヒーローがいます。自然の力は強大なので、ヒーローといえどもわずかばかりの抵抗しかできません。それでもヒーローは人々を守るために立ち向かうのです。命がけの活動は日の目を見ることばかりではありませんし、時には敗れ去ることで注目されることもあります。

実話ベースなので調べれば結末はわかることですから、火災の顛末をネタバレありで記します。鑑賞前に知りたくない人はご注意ください。

あらすじ

エリック・マーシュの率いる消防チームは、山林での火災に対処するのが任務。
エリックは豊富な経験と天才的な読みで、山火事の進路を割り出して延焼を防いできた。
だが、市立のチームは未だにトレーニーと呼ばれる練習生扱いのランクだった。
トレーニーは、現場にホットショットと呼ばれる精鋭部隊が乗り込んできた際は、その指示に従わざるを得ない。

チームの結束は固かったが、エリックの強気な性格からホットショットへの昇格試験の審査員の受けが悪い。
市立の不利もあってなかなかホットショットに昇格できずにいた。

クスリをキメて怠惰な生活を送る若者ブレンダンは、付き合っている彼女が結婚前に女の子を出産したのを機に、娘のために生活を改める決心をする。
彼はエリックのチームへの入隊を目指すが、全く体力がなく、気力だけでなんとか食らいつき入隊を許可される。

同じ頃、市長の協力を得て、ホットショット昇格の審査を受けることが決定する。
審査対象となる現場でまたも審査員に歯向い、不合格を覚悟するエリック。
だが、成果を上げたことが認められチームは念願のホットショットとなる。

その後も、樹齢2000年を超えるシンボリックな古木を山火事から守るなど、活躍を続けるエリックたち。
しかし、ブレンダンは火災現場で身の危険を感じたことから、娘のために危険の度合いが違う建物火災のチームに移りたいと考え始める。
エリックも妻との間で子作りの問題を抱えるなど、隊員たちはそれぞれの人生を懸命に行きつつ、命がけで火災に向き合っていた。

そんな中、ヤーネルで起きた山林火災への臨場がチームに下命される。
いつものように鎮火していくエリックのチームだが、急な風向きの変化などで思わぬ広がりを見せる炎に焦りだす。
エリックたちは多少の無理を承知で、強引に避難場所として想定していた建物を目指すことにする。
その道中、炎の広がりがさらに勢いを増し、彼らは建物にたどり着けないことを悟る。
止むを得ず、訓練通りに防火シートで体を包んで炎をやり過ごす決断を下したエリック。

チームの作戦により別行動をしていたブレンダンは、他のチームに拾われ指揮所に戻るが、エリックたちはまだ火災の真ん中に取り残されていることを知る。
そして、炎が全てを焼き尽くした後で現場へ駆けつけるのだが、そこにはエリックたちの遺体が並んでいるのであった。

火災から身を守れるか

消防士の精鋭チーム、グラニットマウンテンホットショットはヤーネルの山火事で命を落とします。
彼らの死因は焼死です。
焼死といっても、炎で焼かれるばかりではありません。
熱気を吸い込み肺が機能しなくなったり、煙による一酸化炭素中毒など、窒息も火災での焼死に含まれます。

エリックたちの訓練シーンで、耐火シートに包まるものが出てきます。
映画的にはラストを予兆させるわけですが、現実の厳しさを伝えてもいます。
防炎シートや耐熱シートなど、炎や熱から身を守るものは、基本的にはほとんど一瞬と言っていいレベルの時間しか機能しません
火災現場では炎が1000度を超える中、消防士の服を始め、防炎グッズは1500度くらいの熱に耐えられます。
ただし、その時間は10数秒でしかないのです。
溶接などの高温作業をしているとわかりますが、服やシートの素材は炎を防ぐにしろ、熱を防ぐにしろ、ほどなく焼けていきますし、溶けていきます。

エリックたちは業火の中で防炎シートに包まり、少なくとも10分単位の時間を耐えなければならなかったことでしょう。
渦巻く炎と熱の恐怖の中、少しでも隙間を作ったり、シートが溶けていけば、炎よりも先に1500度もの高熱にさらされるのです。

建物火災と森林火災

アメリカでは消防士がヒーロー的な職業と認知されています。もちろん、日本でも時代を問わず憧れの職業に挙げられています。
同じ消防士ではありながら、アメリカの消防士は日本でのハイパーレスキューや、災害時の自衛隊のような感じをより強く併せ持っているようです。

9.11のテロの時、ワールドトレードセンターに入っていった消防士たちもヒーロー的な存在です。
ところで、彼らは基本的に建物で起きる火災に立ち向かいます。
一方で、日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカでは山火事や森林火災が頻発するシーズンがあり、基本的にこれに対処するのは建物火災のチームとは別の組織となっています。
通常は州で組織されるものが多い中で、この映画に登場するエリックのチームは市によって組織されたものです。
そのため、当初はトレーニーと呼ばれる下部団体の扱いを受ける描写があり、精鋭部隊であるホットショットになるのを念願としています。

建物と森林では同じ火災でも性質が異なります。
技術的に共有できるものもあれば、専門的に学ばなければならないこともあります。
特に延焼に関しては、防火基準が高まって以降の封じ込めやすい建物火災と違い、森林火災は無限にも思える燃料源となる木々が広がっています。

江戸時代の頃は大火が起きると火消しの組が周囲の建物を予め壊して回ったのと同じく、山火事も火の広がりを予測して、炎が迫る前に森林を伐採するのがポイントとなります。
さらに、ヘリコプターや航空機を使って、ダイナミックな放水消火を試みることもあります。
この場合、水で消すというよりは、何トンもの水を落とす勢いで消すイメージになります。
わざと爆発を起こして爆圧で相殺消火するのも同様の考えです。

映画の中の炎の表現

1939年の大名作「風と共に去りぬ」では、南北戦争の最中、アトランタの市街が炎上するスペクタクルなシーンがあります。
火事を中心に据えないながらも、映画には火災や炎の表現が、さらに言えば大なり小なりの爆発シーンが不可欠です。過半数を超える映画には何らかの爆発シーンがあるのではないかと思われるくらいです。
CGが使われるまで、炎は実際に火を燃やすことで撮影されていました。建物はセットを組んでから燃やすという、まるで作って壊す砂曼荼羅のような撮影方法だったのです。また、カメラの手前に炎を配置して、奥で芝居することで炎の中の様子を表すのも定番です。

デジタル技術が進歩したことで映画が表現の幅を広げる中、実は炎をリアルに描写するのには後年まで苦労してきました。CGの炎は一見リアルながら、映像に組み込むと嘘くささが透けてしまったのです。
しかし、現在では本物と見紛うレベルに達して、小火から大爆発まで、コンピューターの中で再現されるのが増えています。

実在の人物を演じる

「オンリー・ザ・ブレイブ」は実話を基にした物語ですから、役作りに際して本人から学ぶこともできます。
グラニットマウンテンホットショットの指揮官であるエリック・マーシュの妻、アマンダを演じるにあたって、ジェニファー・コネリーは実際のアマンダと過ごしました。
映画の中でジェニファー・コネリーが履いているカウボーイブーツは、アマンダ本人が履いていたものだと言います。
こうした実在の人物が描かれる物語で、縁ある人達の協力を得られるかどうかはケースバイケースです。
協力の有無に関わらず、ハリウッドスターは役作りのためのリサーチに時間とお金を惜しみません。
肉体改造で体重を増減させるのは当たり前として、時には永久歯を抜いてしまうことも辞さないのです。
相手が犯罪者の場合、獄中の本人と特別に面会をすることもあります。

スクリーンの中の姿に共感できるのかはそれぞれでしょうが、真摯に役に向き合うからこそ、全世界の人々に届いた時に感動を与えることができるのでしょう。

作品情報

原題:ONLY THE BRAVE(2017)
監督:ジョセフ・コシンスキー(Joseph Kosinski)
出演:ジョシュ・ブローリン(Josh Brolin) ジェニファー・コネリー(Jennifer Connelly)


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