「オクトパス」が活躍しないのにパニックものとして成立する怪作


大ダコが登場する動物パニック大作をイメージして見ると、度肝を抜かれることになる複雑怪奇かつ単純明快なビデオ映画です。わざわざ取り上げるのもいかがかもしれませんが、世界にはこういう映画もあるのだと知るのも悪くありません。

ストーリーを知ったところで大勢に影響はなさそうなトンデモ要素を楽しむ作品と思うので、簡単にラストまでのネタバレありであらすじを記します。

あらすじ

冷戦時代、米ソの思惑が絡んだキューバ危機の最中、ソ連の潜水艦が炭疽菌を運んで潜航中に米潜水艦の魚雷攻撃を受けて被弾、沈没してしまう。沈没の拍子に積荷は海中へと飛び出してしまう。

現代、大使館で爆弾テロが起きる。その場に居合わせた新米エージェントのロイ・ターナーは、目撃した有名テロ犯のキャスパーを追い詰めたものの発砲をためらう。隙をついて反撃したキャスパーはロイの上司を殺してしまう。それでも逃亡に失敗したキャスパーを捉えることに成功するロイ。
犯罪組織のリーダーであるキャスパーの奪還が予想される中、米国への移送に通常のルートは危険と判断した上層部は潜水艦での移送を決意。目をつけられないように移送の監督には専門外のロイを同行させることにする。
キャスパーを移送する潜水艦は、問題行動から左遷された艦長ジャック・ショウが指揮していた。自己中心的なジャックの艦には、海洋生物の研究を目的として女博士のリサが同乗していた。
同じ頃、キャスパーの奪還を目論む組織はキャスパーが潜水艦で移送されていることを掴み、豪華客船の船長の家族を人質にとり、密かに潜水艦の発見追尾を目論む。潜水艦内でクルーを人質にとり拘束から逃れたキャスパーは、発信器のついたブイを放出することに成功していた。

そんな時、潜水艦が何かに襲われる。突然の衝撃に艦内はパニックに襲われる。襲撃してきたのは大ダコだった。リサの調査で炭疽菌を原因に変異したタコが世代交代の中で巨大化し人食いダコに変様したことが判明。クルーが次々と餌食になる。
潜水艦を捨てることを決意したジャックはロイとリサ、キャスパーを連れて小型潜水艇を発振させる。海面で豪華客船に救助されるロイたち。しかしその船はキャスパーの仲間達に占拠されていた。
追いかけてきた大ダコが客船を襲う中、キャスパーはヘリでの脱出を試みるも敢え無く死亡。ロイはキャスパーの残した爆弾で大ダコを殺そうと潜水艇に乗り込むのだった。

徹底したナンセンスは讃えるべし

とにかく突っ込みどころ満載で、と言いますか、突っ込みどころしかないB級ビデオ映画でした。それでもここは見所を探すのが目的なので見所を考えてみましょう。
まず、オクトパスというタイトルで巨大ダコのパニックものと思わせながら、巨大ダコは脇役でした。タイトルでミスリードするとはなんとも大胆なテクニックです。
本筋は大使館を狙う連続爆弾テロ犯と、本業は分析官で戦闘行為は苦手なエージェントとの心理戦です。基本的には一貫したキャラクター描写はなく、登場人物は皆一様に行き当たりばったりな行動をとります。皆一様な時点で一貫したキャラ設定と言えなくもありません。
大ダコパニックではなくても、パニックものであるのは確かで、登場人物が皆一様にパニックに陥ります。ワーワーキャーキャーわめき散らします。極め付きのパニッカーズは米海軍の原潜のクルー達です。大ダコに襲われると我先に操舵室から逃げ出します。潜水艦を舞台とする映画は数多く見てきましたが、ここまでメンタルの弱いクルーは初めて見たかもしれません。
潜水艦に乗り合わせた女科学者は超天才です。古びて朽ちかけた潜水艦のそばにあったなぜか新品同様のドラム缶の成分を抽出して大ダコの生まれた原因と特性を一瞬で理解します。その割には彼女の立てた作戦は何の役にも立たずいつの間にかなかったことになっています。
気の利いたセリフを言っていると思ってるのは登場人物だけで、おしゃれっぽいセリフよりは上滑りしてしまい、そんなことよりジョーズばりのサスペンスを見たいと思ってしまうのは不謹慎でしょうか。
原潜が爆発しても死ななかったような大ダコはテロリストの持ち込んだ爆弾で木っ端微塵になります。タコが主役じゃないので退治してもカタルシスが起こるはずもありません。実際、登場人物たちもタコはさほど気にしている様子が見られません。だから、エージェントとヒロインのラブ路線を引っ張りながら最後は艦長とヒロインが唐突にキスしてもエージェントはバンザイしてます。

どうです? これほど勢いのある映画はそうありません。サメが空から襲ってくる「シャークネード」などの一連のシャークシリーズが緻密で情緒あふれるカンヌ招待作品に思えてきます。
ただし申し上げておきたいのですが、突っ込みどころは面白がるところであり、文句をつけるところではありません。B級に腹をたてるのはナンセンスで、笑い飛ばしてしまうのが正解です。

動物パニックムービー

B級B級と言ったものの、日本の映画界では考えられない予算をかけて「オクトパス」は制作されています。公表されているバジェットは500万ドルなのでおよそ5億円となります。現在の邦画で5億円かけられるとなると東宝の大作くらいと思われるので贅沢のレベルが違います。
お金をかけられるのはニーズがあるからで、アメリカや日本だけでなくヨーロッパ各国からブラジルにクウェートまで、オクトパスは世界中の人が見られるようになっています。

身近な動物が巨大化して人々を襲うシチュエーションは万国共通で通じやすく、共感しやすいテーマのようです。古くはスティーヴン・スピルバーグ「ジョーズ」に始まり、ジョン・ヴォイトが怪しさ満点でガイドを演じたジェニファー・ロペス主演作「アナコンダ」もシリーズ化されています。つい最近もジェイソン・ステイサム主演で「MEG ザ・モンスター」という巨大シャークものがありました。
「メガシャーク」「クロコダイル」あたりになるとトンデモぶりに拍車がかかって、秀逸なコメディの趣を感じさせるに至ると言っては言い過ぎでしょうか。

巨大化路線の他に、リアリティに寄せた恐怖もあります。アルフレッド・ヒッチコック監督の「鳥」は元祖とも言える作品です。どこにでもいる鳥も多数集まると恐怖でしかないと、サスペンスの巨匠がクラシカルな雰囲気を残した作品で既に提示しています。
「アラクノフォビア」も一見の価値ある作品で、多くの人が生理的に嫌う蜘蛛退治をコミカルさを織り交ぜつつ、ホラーものに仕立てていて面白いです。

ところで、最近では巨大生物が恐怖以上に生命の神秘として取り上げられていたりもします。NHKのスペシャル番組では深海の巨大生物を追っていて、中でもダイオウイカの回は高い視聴率を獲得して話題になりました。


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作品情報

原題:OCTOPUS(2000)
監督:ジョン・エアーズ(John Eyres)
出演:ジェイ・ハリントン(Jay Harrington) ラビル・イシアノフ(Ravil Isyanov)


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