外見の美醜よりも大切な内面の美しさ、それが「ワンダー」

ワンダー
どんなに奇異な見た目でもやがて慣れます。真の繋がりは心と心でおこなわれます。周囲は同情から助けてくれるのではなく、友情や愛情から手を差し伸べるのです。誰もが間違いながら、正しい道を学んでいくのです。

あらすじ

遺伝子異常で生まれたために、生後すぐから何度も手術を余儀なくされたオゥギー。ずっと自宅で母親に勉強を教わっていたが、新学年を機に一般の学校に通うことにする。家族の心配はオゥギーの顔で、整形手術をしてもまだ人目をひくに十分だった。
普段の外出では大抵、宇宙飛行士に憧れる弟のために姉のヴィアがプレゼントしてくれたヘルメットを被っていたものの、学校ではそうはいかない。始業式の前に校長に挨拶に行き、初等部からくり上がりの生徒に校内を案内してもらう。
聡明なオゥギーが隣の席のジャック・ウィルにテストの答えを教えてあげたことで、二人は友達になる。それが面白くないクラスでリーダーシップをとるジュリアンは、オゥギーを仲間外れにしようとする。孤立したくないジャック・ウィルが勢いで口走った陰口を聞いてしまいショックを受けるオゥギー。
姉のヴィアは弟を慰めるが、彼女自身も幼馴染のミランダが高校進学から素っ気ない態度を取るようになり孤独を感じていた。ヴィアが偶然知り合ったジャスティンに惹かれ演劇部に入ると、ミランダも入部していた。
ジュリアンの行き過ぎたやり口に憤慨したジャック・ウィルがジュリアンに殴りかかったことで、オゥギーに対する仕打ちが校長の知るところとなる。ジュリアンは反省していたものの、彼の両親はジュリアンを盲目的にかばうだけで転校させてしまう。
ジャック・ウィルと仲直りし、オゥギーは林間学校を楽しむ。母のイザベルは息子が外の世界に出たのをきっかけに、諦めかけていた論文の執筆を再開する。些細な嘘からヴィアと距離を置くようになってしまったミランダは寂しさを感じていて、なんとかまた仲良くしたいと思っていた。
目に見える苦悩、目に見えない孤独感、オゥギーだけでなく、誰もが人生と向き合っていた。そして、もうすぐ一年が終わろうとしている。

テーマを重くさせない配役

「ワンダー 君は太陽」はオゥギーを中心とした物語ではありながら、彼を取り巻く人々の物語にもなっています。章立てになった物語は、時間を行きつ戻りつしながら、一見健常に見えても苦悩はあるのだと改めて浮かび上がらせます。
この映画の登場人物は皆、とてもいい人たちです。いじめもありますが、心根は優しい人々がほとんどです。性根の腐ったと表現されるような人たちは早々に退場していきます。お涙頂戴ではなく、ほっこりと心を温めてくれるお話です。
映画のテイストは色々な要素で決まります。「菊次郎の夏」は結構シュールな作品なのに、久石譲の音楽の雰囲気が一夏の素晴らしい体験を後押ししてくれます。「ワンダー」の場合、オーウェン・ウィルソンの占める割合が多くなっています。出ずっぱりの意味ではなく、彼のコメディセンスによって、しんみりとさせず、前向きな明るさで満たされる映画になっています。
オーウェンといえば、「シャンハイ・ヌーン」ジャッキー・チェンのサイドキックになったり、ウディ・アレンの監督した「ミッドナイト・イン・パリ」では悩める作家を演じるなど、幅広い役柄に溶け込める俳優です。ディズニーの「カーズ」では主人公のライトニング・マックィーンの声優をしていることでも知られています。

異形の人を描く映画

映画界ではCGが全盛になる前、ファンタジー作品を中心に特殊メイクや着ぐるみによる撮影が一般的でした。その際、小人症や低身長の人が起用されることがあり、「スターウォーズ」シリーズでR2-D2イウォークを演じたケニー・ベイカーをはじめ、有名になった人もいます。
1932年の映画「フリークス」は、身体的な特徴を有する人が多数登場することで知られていますが、通常は役者が演じることになります。1980年に全米で公開され、アカデミー賞8部門ノミネートとなったデヴィッド・リンチ監督の「エレファント・マン」は、実在したジョゼフ・メリックという人の物語で、その特異な見た目からエレファントマンと呼ばれ、数奇な運命を辿った男の話です。
ところで、デヴィッド・リンチは「ツイン・ピークス」「マルホランド・ドライブ」など、夢か現かわからない表現が得意な監督です。一方で、「ワイルド・アット・ハート」ではカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得したり、「ストレイト・ストーリー」では農業トラクターで旅をする老人の穏やかなロードムービーを撮るなど、摑みどころない作風が魅力だったりします。

閑話休題、「グーニーズ」に出てくるフラッテリー一家のはみ出し者スロースは、見た目の異様さとは打って変わってまっすぐな心の持ち主で、マイキーたちと友情を築き、窮地を救ってくれる相棒となります。
少年時代はかくも友情が大切で、オゥギーも周りの人々の誤解を解きながら友達を得ていきます。家族は味方です。姉の親友ミランダは、オゥギーを弟と思って接してくれます。先生たちも理解を示してくれます。ともすれば現実はそんなに甘くはないかもしれませんが、映画の中くらいは美しい世界であってもいいと思います。

子役と侮れない

オゥギーが持って生まれた症状は、トリーチャー・コリンズ症候群と呼ばれている遺伝子の突然変異です。下顎顔面骨形成不全症とも呼ばれる希な疾患で、映画にもあるように小さい頃から整形手術を何度もしている人がいます。ジェイコブ・トレンブレイはこの役を演じるにあたって、家族と一緒にトリーチャー・コリンズ症候群の子供に会って友達になりながら理解を深めたと言います。
特殊メイクで顔を作っているのですが、ヘルメットのような頭部型に、マスク、そして質感メイクをされる作業は数時間がかりです。大人でもじっと耐えているのは大変なのは想像に難くありません。すごいのは、メイクと知っていてもそれを感じさせずに映画に没頭させられることです。
ジェイコブ・トレンブレイが気になった人は、2015年の「ルーム」を見てみるのはいかがでしょう。こちらは母親が主役で、最終的にヒューマンドラマなのは同じでもサスペンスフルな展開から始まります。

ジャパンメイドのアイテム

「ワンダー」の中でオゥギーが自転車に乗っている短いシーンがあります。実は、映画ファンの多くはこの自転車と同じものを一度は目にしているはずです。「E.T.」でエリオットたちがE.T.を逃がすために自転車で空を飛ぶシーンがそれで、エリオットは前カゴを自作しているものの確かに同じエンブレムやフレームとハンドルが確認できます。
エンブレムの日の丸でわかるように、この自転車は大阪のKUWAHARAというメーカーのBMXです。E.T.モデルは人気となり、映画の周年タイミングで何度か復刻されています。

Bitly

作品情報

原題:WONDER(2017)
監督:スティーブン・チョボスキー(Stephen Chbosky)
出演:ジェイコブ・トレンブレイ(Jacob Tremblay) ジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)

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