和製ファンタジーをヒットに導く「さよならの朝に約束の花をかざろう」


クールジャパンを例に取らずとも、日本のアニメは世界一ィィィィ、かは分かり兼ねますが、アニメ大国であることは疑問の余地がありません。ドラゴンボールやセーラームーンは、今でも諸外国の人たちが日本に興味を持つ大きなきっかけとなっています。

ジャパニメーションパワーを操る監督たち

深夜帯を中心に数多くのアニメが制作されていて、定番の萌えから、エロ、SF、ファンタジー、ギャグなど、ジャンルも様々に楽しませてくれます。映画界に目を転じてみると、昔からあるテレビアニメをベースにした劇場版から、ジブリに代表されてきたオリジナル作品まで、やはり枚挙に暇がありません。

アニメ映画の監督としては、長らくオールラウンドの年代層に支持されてきた宮崎駿や、コアなファンをがっちりと掴んできた押井守や庵野秀明らがいます。近年は、細田守や新海誠を始めとする新たな波も押し寄せています。新旧織り交ぜれば、原恵一、水島努、新房昭之ほか、とにかくタレント揃いと言えましょう。

こうした人たちに対して、一般的な知名度もぐんぐんと上がり始め、ファンからは常に新作を待たれているのが、長井龍雪岡田麿里のコンビです。岡田麿里は、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」の脚本で知られ、アウトサイダーな人々のドラマに定評があります。
今回、長井龍雪は演出に回って、岡田麿里の監督作となったのが「さよならの朝に約束の花をかざろう」です。

正統派ファンタジーの世界観

超長寿の種族や飛竜のような巨獣が登場する物語は、「あの花」や「ここさけ」が秩父のリアルな風景と人々を描いたのとは趣を異にしています。今の実写映画の状況を見てみると、残念ながら邦画でのファンタジー物はヒット作を生むのがとても難しいのが現実です。
大ヒット漫画を原作とした「進撃の巨人」「鋼の錬金術師」は、それぞれ興行収入が30億円越えと10億円越えを果たしたとはいえ、もっと好成績でもいい企画だったと思うのです。結局、ファンタジーは中世ヨーロッパの雰囲気を持ったものが多く、日本人キャストで実写化することの違和感は常に議題となります。
でも、です。
アニメなら、どんな無理もできますし、漫画の絵柄そのままに映画化することも可能なはずです。「さよならの朝に約束の花をかざろう」は、思いっきり異世界ファンタジーで、アニメだからこそ構築できた世界観と言えます。
ハリウッドであれば、こうした作品でも実写化してヒットさせるのかもしれません。本当に残念ながら、日本では「ハリー・ポッター」シリーズがヒットしても、邦画実写ファンタジーは成功できないようです。
だからこそ、です。
このアニメーション作品には、ぜひ頑張ってもらいたい思いで見たわけです。

あらすじのさわり

舞台は、中世くらいの文明レベルにある人間世界で、ここにはティーンエイジの姿で成長を止める長寿の種族イオルフがいる。少年少女の姿の種族で、誰もが皆キラキラと若さの美しさに溢れているのだ。
人間の理想形であり、アニメなので美少年美少女揃い。都合良く便利な設定とはいえ、東欧系に整った顔が多い印象があったり、秋田には美人が多いと噂されるように、イオルフは美形揃いなのだと言われれば納得できる。
イオルフは半ば伝説的な種族ながら、人々に存在を知られていて、ヒビオルと呼ばれる織物は市場に出ればそれなりの値で取引されている。ヒビオルの織り目にはメッセージを仕込むことができて、イオルフが読み解くことで手紙のように使える道具ともなるのだ。

また、この世界にはレナトと呼ばれる龍のような生き物もいる。レナトには飛翔能力があり、古の巨獣と畏れられているものの、種としての寿命は尽きようとしていて、個体数は激減の一途を辿っている。
レナトを要するメザーテはその力で周囲の国を制圧する王国ながら、一頭、また一頭と数を減らしていくレナトに代わる国力維持の方策として、イオルフに目をつける。こうして、メナート軍がイオルフの村を襲うことになる。

一人で逃げる形となったイオルフの少女マキアは、孤児となった人間の赤ん坊エリアルを救け、母親代わりに育てることにする。数年後、母として自分を育ててくれたマキアに恋をしたエリアルは、イオルフと人間という、種族の超えられない壁に苦しむ。マキアも、人間であるエリアルとの距離の取り方がわからない。

メザーテによるイオルフとの混血計画は失敗し、レナトは最後の一頭となり、イオルフのゲリラ部隊は他国と手を結びメザーテ侵攻が始まる。
物語がクライマックスへと向かう中、マキアとエリアルには別れと、そして、再会が待っていた。

じんわりと感動が湧き上がる

閉鎖的な社会に外界から人がやってきて、コミュニティーを壊していくドラマは、古今東西比較的オーソドックスなテーマと言えます。「風の谷のナウシカ」も巨神兵が掘り起こされたことに起因して、風の谷が大国に蹂躙されます。
また、ヴァンパイアがメインの物語だと、不老不死者と人間との間のドラマになるので、吸血鬼は美しいまま年をとらず、人間側が吸血鬼となってまでも一緒にいようとするのか、もしくは復讐に突き進むのかなど、種族の価値観の違いに苦悩するストーリーになりがちです。

テーマとしては目新しくないからといって、マンネリと片付けるのは早計です。むしろ、世の中の物語のパターンを大別すると36しかない、いやもっと大枠を取ればしかない、とも言われるくらいですから、テーマが共通するのは珍しくもありません。
永遠のマンネリズムと呼ばれた「水戸黄門」はどのシリーズにも大抵において偽の黄門様が出てきたり、自暴自棄の職人が改心したりと、焼き直しシナリオに溢れています。「男はつらいよ」に至っては、マドンナが現れて寅さんが振られるワンパターンだけで9割超です。
人気のテーマだからこそ繰り返し用いられるのであって、事実面白いのです。

興味深いテーマと、繊細なジャパニメーションの世界、トレンドのスタッフ陣。観客は、マキアの精神的成長と、エリアルの人間的成長を見ていくわけで、そりゃあ感動しますよ。
しかも好ましいのは、お涙頂戴な話ではなく、じっくりと温かい感動が湧き上がる展開になっていることです。

作品情報

原題:さよならの朝に約束の花をかざろう(2018)
監督:岡田麿里
声の出演:石見舞菜香 入野自由

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