「ウィンストン・チャーチル」が英国王と民衆を味方につけた術


第二次世界大戦は文字通り世界中を巻き込んで争われました。日本は真珠湾を攻撃し、環太平洋の西側を中心に侵攻していきます。アメリカも各地に軍を送り込んで戦闘を行っています。欧州は英仏と独伊の対立構造が周辺や社会主義国家も巻き込んでの激戦となりました。大戦の最中、ヒトラームッソリーニと渡り合ったのが英国の首相となったウィンストン・チャーチルです。

あらすじ

第二次世界大戦の真っ只中、欧州を席巻しようとしているナチスに対して、海を挟んだ英国も静観をしている状況ではなく、フランスでの戦闘にヨーロッパの命運がかかっていた。英国では独伊に擦り寄る外交で行くのか、真っ向勝負で行くのか議会が紛糾し、次期首相選びが熱を帯びる。
与野党は戦時連立内閣で臨むべく手を取るも、火中の栗を拾うタイミングに首相になる貧乏くじを誰に引かせるかは、権謀術数が渦巻いていた。与党の候補は国王とも親交の深い男ながら、あえて擁立を避け、野党のチャーチルを連立政権の首相にする。チャーチルは変わり者として知られ大臣時代の失敗もあり、言いなりにしておいて、不都合があればすぐに首を挿げ替えられるとの思惑もあった。
その頃、ベルギーが陥落し、フランスへの侵攻が勢いを増し、ダンケルクでは英国軍が孤立の様相を呈する。

クセの強いチャーチルは数少ない味方しかいない中で、信念の政策を貫こうとする。妻の存在を除けば、身の回りで唯一と言っていいほど気を許せるのは、エキセントリックなチャーチルに食らいついて信頼関係を築いたタイピストだけ。
囮となる4000人の隊を作ってでもダンケルクの30万人以上の兵を撤退させ、徹底抗戦を考えるチャーチルに対して、与党側は独伊と和平交渉するべきと迫る。一度でも弱腰になればヒトラーとムッソリーニの前に英国の未来はないと考えるチャーチルは、国王に全てをぶつけてみる。与党の次期首相候補と懇意の国王だったが、英国の未来を憂いてチャーチルの側につく。
英国本土決戦も覚悟するチャーチルは、庶民の声を聞くために地下鉄に乗り、語りかける。国王と民衆を背後につけ、チャーチルは国会で決意の演説をするのだった。

ウィンストン・チャーチルの人となり

激動の時代に英国の首相となったチャーチルを描いた映画とはいえ、ラストでもまだ首相になってからほんの2週間程度です。ここから第二次世界大戦の終結までは5年ほどもかかります。まさに戦時内閣を背負って立った人物で、時の独裁者と真っ向から勝負した剛腕です。
内務大臣、大蔵大臣、海軍大臣と歴任し、戦時内閣だけでなく、戦後にも首相に返り咲いています。父親のランドルフも大蔵大臣だったことがあり、小さな頃から政治に興味を持っていました。学業は芳しくなく、どちらかと言えば落ちこぼれコースで陸軍士官学校へ進んだようです。
政治家となってからは頭角を現し要職に就いたものの、向こうっ気の強さがあり、同じ党派内でも煙たがれることがありました。大恐慌から第二次世界大戦前夜にかけて要職からは遠ざけられていました。そのため、ナチスドイツが着々と軍備を整えていこうとするのに対してチャーチルは警鐘を鳴らしていましたが、英国やフランスは耳を傾けることなく、その流れを止めるよりも黙認する立場に立ってしまったのです。

ところで、チャーチルには文才があり、後年になってノーベル文学賞を受賞しています。手記として従軍記や半生記を、あるいは小説も書いていました。絵画も趣味にしていて、風景画を好んで描いており、ピカソも認める腕前だったと言います。
変わり者であったのは確かで、同時代を生きた人からは否定的に取られることの方が多かったとはいえ、現在では英国史上で1、2を争う偉大な人物と、高い人気があります。

映画の中の出来事とその後の出来事がわかる作品

第二次世界大戦はヨーロッパで戦端が開かれ、ヒトラーを筆頭に数々の戦場や戦局が有名になっています。映画化されたエピソードは数知れず、英国首相であったチャーチルが登場するものも枚挙にいとまがありません。

2017年に公開されたクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」は、ダンケルク撤退戦を扱った力作です。映画「ウィンストン・チャーチル」の中でも重要なエピソードでありながら、あまり画になっていない作戦を、真正面から描写しています。ロンドン出身のノーラン監督は、「ダークナイト」を中心としたバットマン・トリロジーでメジャー監督となり、渡辺謙出演の「インセプション」など映像センスの高い作風で知られています。同時に「メメント」のようにストーリーテリングにも定評がある名匠です。

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40年以上遡って、1976年のイギリス映画「鷲は舞いおりた」は、「荒野の七人」「大脱走」を撮ったジョン・スタージェス監督の遺作です。ヒトラーの命ずるチャーチルの拉致という無謀な計画に翻弄されつつ、暗殺にまで発展させる特殊部隊の男気溢れる生き様が描かれています。

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日本人と米アカデミー賞

チャーチルを演じたゲイリー・オールドマン直々のリクエストで特殊メイクを担当したのが、日本人の辻一弘です。ハリウッドに渡って師事したのが、「ゴッドファーザー」マーロン・ブランドをマフィアのドンに仕立てたディック・スミスであり、兄弟子はアカデミー賞の常連メイクアップアーティストであるリック・ベイカーという具合に、最先端のチームで腕を振るってきました。
辻自身も数多くのハリウッド作品で特殊メイクを施し、「ソルト」アンジェリーナ・ジョリー「ジャッキー・コーガン」ではブラッド・ピットを担当するなど、トップスターからの信頼も厚いアーティストです。
精悍なゲイリー・オールドマンを恰幅のいいチャーチルへと変貌させた辻一弘は、2018年の第90回米アカデミー賞において、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しました。名誉賞や科学技術賞などを除いた個人の主要部門受賞として、最近では1993年に石岡瑛子が衣装デザイン賞、1988年に坂本龍一が作曲賞、1986年にワダエミが衣装デザイン賞をそれぞれ受賞したのに続く、久し振りの快挙を成し遂げたのです。
2012年頃から映画界を離れて現代美術作家となった辻は、リンカーン大統領やアンディ・ウォーホルなどのリアルで巨大な頭部像を作っていました。ゲイリー・オールドマンのラブコールがなければ復帰はなかったかもしれなかったと思うと、これもまた数奇な運命です。

作品情報
原題:DARKEST HOUR(2017)
監督:ジョー・ライト(Joe Wright)
出演:ゲイリー・オールドマン(Gary Oldman) クリスティン・スコット・トーマス(Kristin Scott Thomas)

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