「ブンミおじさんの森」はどのあたりが審査員好みなのか


はっきり言って難解な映画です。カンヌ映画祭でパルムドールを獲得しましたが、芥川賞が必ずしも万人受けするとは限らないように、この映画も受賞作だからと鑑賞したら面食らって困惑するばかりです。
ただし、面白くないわけではなく、淡々とはしているものの目の離せないままにラストを迎えます。

あらすじ

死期の迫るブンミおじさんを訪ねて、死別した妻の妹が息子を連れてやってくる。義妹と甥と三人で夕食を食べていると、その席に妻の幽霊が現れる。そして、やはり死んだ実の息子が同席するが、息子は猿の精霊となっていた。
ブンミおじさんは農園を経営していたが、これを義妹に譲りたいと考えていた。

ここで物語はおとぎ話のようなエピソードになる。
ある国の王女と彼女の従者の物語。従者は王女に恋しているが、王女は鯰と交わる。

ブンミおじさんはいよいよ死期が迫り、洞窟へと足を運ぶ。

物語は再び混沌として、猿人たちが未来へと行く。その様子が写真スライドで綴られる。

ブンミおじさんの葬式が行われている。甥は僧侶として参加している。宿屋のベッドでくつろぎながらテレビを見ている義妹と長女。甥はシャワーを浴びて家族三人は食事に出かけるのであった。

映画の楽しみ方

謎な映画と申せば、かなり謎な映画です。何かが起こりそうで起こるでもなく展開していきます。意味ありげなシーンが続くものの、その真意は計りかねます。
甥がシャワーを浴びるシーンが結構じっくりと描かれています。この甥が取り立ててセクシーなメンズでもないので困惑は増すばかりです。

映画には、映画によらず小説でも漫画でも音楽でもそうですが、決まった楽しみ方というのはありません。好みが人それぞれであるように、楽しみ方も千差万別です。エンタメ系を単純に楽しむのが好きという人もいるでしょうし、哲学的な作品に触れてじっくりと考えるのが好きという人もいるでしょう。ヒントを求めて評論や解説を読むのもありです。
大多数のごく一般的な作り手であれば何かしらの意図を持って作るのが通例ながら、受け手側がその通りに受け取る必要はないと思います。いつも言うように、学校の授業で作品を読み解く勉強をするのは、楽しみ方の手段を学ぶためで、必ずしも正解を探すわけではないのです。とはいえテストでは一応正解とされるものを提示しなければ点数が貰えないので注意は必要です。

さておき、この作品のように難解なものに触れた時、眠くてつまらない作品だと断定してしまっても構いません。一方で、国際的に権威があるとされている映画祭で最高賞を受賞したというのもまた事実です。
確かにあまねく人々にオススメしようとは思えないまでも、何ら印象に残ってこない作品群に比べれば、見たことを忘れない作品であることは違いありません。

と、言ったものの、実はこの作品を公開時に劇場で観ておきながら、10年近く経ってテレビ放送時に再見したときは、一度観ているという事実すら覚えていなかったのですから偉そうなことは何も言えません。おそらく、劇場で見たときは居眠りでもしてしまったのでしょう。ほとんど内容を覚えていませんでした。

パルムドール

「ブンミおじさんの森」には原案があります。1983年にプーラという僧侶の書いた「A Man Who Can Recall His Past Lives – 前世を呼び覚ます男」です。原作ではなく、あくまでもインスパイアの元として紹介されています。
甥が僧侶であることなどは書籍からの関連なのだと思われます。

不思議な映画ながら雰囲気はあって、ある種の玄人が好みそうな匂いはします。実際、カンヌ映画祭の審査員を始め各国の映画祭では評価が高く、2010年にタイ映画として初めてパルムドールを受賞しました。この2010年のカンヌ映画祭では他に北野武監督の「アウトレイジ」もパルムドールを競いました。
「アウトレイジ」は日本でもヒットしたように、比較的わかりやすいヤクザの抗争が中心となったドンパチものです。「ブンミおじさんの森」と同じコンペティションにラインアップされている時点で映画祭の懐の深さを感じさせます。と言いますか、節操がないとも取れます。あるいは他のノミネート作品からも察せられるのは、カンヌ好みの監督作品は優遇されがちなだという傾向です。

ところで、かの地でも作品の評価は真っ二つに割れたようで、映画開始から10分も経たないうちに席を立つ人も見受けられ、終映時にはブーイングも起きたと言います。観客の評価が割れてなお、最高賞を受賞させるのも面白いところです。
大切なのは、パルムドールの肩書きがなければ鑑賞しなかったかもしれないという点です。「おくりびと」「万引き家族」の大ヒットも海外映画祭での受賞と無関係ではありません。どんな映画も見てもらってこそ作られた意味があるのですから、映画祭での受賞で注目が集まるのは良いことだと思います。

最後に、「ブンミおじさんの森」という邦題はなかなかに意味不明ではありつつ、森がメインステージの物語ではありません。一方の英題も、原案の書籍はまだしも、映画内ではブンミおじさんが過去の記憶をどうこう言うような場面はほぼありません。
輪廻転生がテーマらしいものの、兎にも角にも全てにおいてミステリアスな映画なのでした。

作品情報

英題:UNCLE BOONMEE WHO CAN RECALL HIS PAST LIVES(2010)
監督:アピチャートポン・ウィーラセータクン(Apichatpong Weerasethakul)
出演:タナパット・サイサイマー(Thanapat Saisaymar) ジェーンジラー・ポンパット(Jenjira Pongpas)


前世を記憶する子どもたち

コメント