宣伝文句に釣られると痛い目を見る「友罪」の深い闇

友罪
友の罪、子の罪、罪を犯した本人と周りの人と、贖罪とは何なのか。シンプルにまとめればそれがテーマなのではないかと考えさせられました。少なくとも、宣伝文句にあるような少年Aと呼ばれる男の過去だとか、新たな事件がどうとかいう映画ではない気がするのです。
もちろん、ストーリーを追えばそうした側面も出てきます。けれど、そんなショッキングさや事件性よりも、圧倒的に心のドラマが展開します。ミステリー小説ようなものをイメージしていると、肩透かしを食らう人もいるかもしれません。

以下のあらすじには中盤までのストーリーの展開を記しています。ネタバレなしにまっさらな状態で映画を観たい人はご注意ください。

あらすじ

 
益田(生田斗真)と鈴木(瑛太)が工場に試用期間としてやってくる。先輩工員の清水(奥野瑛太)らと共に一軒家の寮で生活するが、鈴木は不愛想で心を開く様子がなく疎まれる。
工場の近所で起きた児童殺害事件の現場に、雑誌記者杉本(山本美月)を乗せてきたタクシー運転手の山内(佐藤浩市)。彼の息子は無免許で児童を事故死させた過去があり、山内は未だに遺族のもとを訪れては罵声を浴びていた。
鈴木が唯一心を開いているのは、矯正施設の白石先生(富田靖子)だけだった。白石は夫と離婚し、娘には他人として扱われていた。
黙々と仕事をこなす鈴木だが、酔い潰れた清水を介抱したり、不注意から大怪我を負った益田を前に冷静に行動するなど、徐々に信頼を得ていく。特に益田に対しては友達として心を開いていく。
益田は、中学の頃に友達を自殺で亡くしていた。その母親は重い病で死の床にいるが、益田の見舞いを楽しみにしている。
ある日、鈴木は元カレから逃げる藤沢(夏帆)という女性と知り合い、仲良くなる。元カレは暴力を振るうだけでなく、AV出演を強要する最低な男だった。鈴木と穏やかな付き合いをすることで、安息を覚える藤沢。
運転手の山内は、別れて暮らす妻から息子が結婚しようとしていることを聞かされる。相手の女性は妊娠までしているという。山内は息子に対して、他人の子の命を奪っておいて、自らの子を作り愛することは許されないと、結婚に反対する。
児童殺害事件を調べていた記者の杉本は、益田がジャーナリストをしていた時の元カノだった。新たに17年前の連続児童殺害事件を調べる杉本は、益田の力を借りようと接触してくる。

そして、益田は鈴木こそが17年前に事件を起こした青柳だと気づくのだが、それは同時に自分自身の過去にも向き合うことになる苦しい旅の始まりだった。

映画の訴求の仕方

映画は客に観られて初めて完成すると言います。作り手はテーマやポリシーを持って作っているのがほとんどで、作っても誰にも観てもらえないのでは意味がありません。エンタメ全開の映画でも同じことですし、むしろエンタメなものこそ一人でも多くの人に観てもらって、1円でも多く稼ぎたいところです。
日本ではなんとなくお金の話は品がないとされていますが、資本主義社会である以上、対価や報酬は絶対に避けて通れないものです。映画作りにはお金がかかり、作ったからには儲けなければなりません。

で、何が言いたいのかと申しますと、作家性の高い作品であっても、売るための方策は考える必要があるのです。端的に言えば、宣伝の仕方がとても大切なわけで、誇張したり、興味の出るポイントを引き立たせるのは当然のように行われます。
「友罪」の場合、「心を許した友は、あの少年Aだった。」とコピーがついています。よく見ると遥かに小さな文字サイズで「6つの人生が交錯し、」と、別の内容も書かれているものの、あえて目立たせてはいません。
鈴木の過去にまつわるサスペンスミステリーなのか、オムニバスに近いヒューマンドラマなのかで、様相は大きく変わります。観る人の意識も、観たいという意欲も変わってきます。残念ながら全般的に人生ドラマよりも、ハラハラさせられるミステリーとした方が訴求力はあるようです。

深い人間ドラマを描く稀有な作品

ハリウッドメジャーではないインディペンデント系の映画には、人生が交錯する様を描いたものが多々あり、アカデミー賞に絡むことも少なくありません。以前は単館系と呼ばれる中によく見たものの、日本ではなかなかヒット作を生まないジャンルなのが残念です。
フォックス・サーチライト・ピクチャーズは20世紀フォックスの子会社で、良質な作品を数多く配給しています。近年では「スリー・ビルボード」なんかも脚本力が際立つ作品でした。主演したフランシス・マクドーマンドは、コーエン兄弟の監督した「ファーゴ」に続いて2度目のオスカーを獲得しています。
別の配給会社でも、2005年度のアカデミー賞で作品賞に輝いたポール・ハギス監督の「クラッシュ」は、マルチプロットによる素晴らしい作品です。
また、ティム・ロビンスの静かな狂気が光る「隣人は静かに笑う(ARLINGTON ROAD)」も、見事なサスペンスです。この作品は原題にもあるように、普通の住宅街に現れた一人の怪我人から物語が大きく動き出します。隣家の人々は善なのか悪なのか、最後の最後まで目が離せません。

「友罪」は、こうした名作に肩を並べるような力強さを持っています。スカッとはしないので、百万人が足を運ぶ類の映画ではないかもしれません。ただ、映画好きで、幅広いジャンルを見るタイプの人であれば、ぜひとも見ておいて邦画もまだまだ十分に奥が深いと感じてもらいたいです。

エンタメと問題提起

統計的に見れば、自殺者や自然死でない人の数は驚くほど多いとはいえ、身近な人のことで経験した人は多いとはいえません。では、映画の問いかけるものが的外れかというと、それは違うのではないでしょうか。
過去の過ちは消せませんが、どこかで区切りを付けて先へ向かうことも大切です。それでも、周りが放っておかないかもしれません。更生せずに罪を繰り返す現実があるのも確かです。
映画のいいところは、その世界の中に没頭できることです。自分も一緒に恋愛をしている気になったり、ヒーローになって地球を救ったり、時には、友人が殺人鬼かもしれません。
ワクワクドキドキさせてくれるのが映画なら、見終わった後に考え込んでしまうようなものもまた映画です。つまるところ、心揺さぶられるのが映画、ですかね。

「友罪」は、罪と罰と償いの物語です。世間を震撼させた事件が再び起こるとか、友人の秘密を知ってしまってどうとか、そんな生半可な物語ではないのです。今や幾重にも絡み合った過去に縛られて、がんじがらめで、ほどけないことを知りながら生きていくしかないお話です。

作品情報

原題:友罪
監督:瀬々敬久
出演:生田斗真 瑛太

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