「柘榴坂の仇討」で描かれる生き様は武士道と内助の功


派手さはないものの、人情時代劇の佳作を見たい人にはおすすめの一本です。仇討は武士にのみ課せられる究極の復讐です。武士たる者、全てをなげうってでも仇を討たねばなりません。しかし、世は明治となり復讐は禁じられてしまうのでありました。ベンベン。

あらすじ

井伊直弼(中村吉右衛門)の近習となり、その人柄に惚れ込んだ彦根藩の志村金吾(中井貴一)。文久三年、井伊の開国論を快く思わない水戸藩士による桜田門騒動が起き、井伊は暗殺されてしまう。井伊の命を守るのが金吾の使命でありながら果たせず、切腹も許されず、逃亡中の水戸藩士の首を取れと命じられる。
一人、また一人と、幕府に捕らえられ、あるいは自決し、仇が減っていく中、時代は明治となり、廃藩置県で彦根藩はなくなり、街には洋装の人々が増えてきた。それでも仇討に全てを賭け、新たな職を得ることもなく毎日を送る金吾。生活は妻のセツ(広末涼子)が職を掛け持ちしながら支えていた。
井伊の暗殺から13年、ついに仇は佐橋十兵衛(阿部寛)ただ一人を残すのみとなる。彼だけは何としても自分の手で討ちたいと願う金吾だが、佐橋の行方は杳として知れない。

その頃、佐橋は直吉と名前を変えて人力車を引く車夫として生計を立てていた。ボロの長屋に住まい、派手なことは一切せず、好意を寄せる女性はいても妻も娶らず独身を通していた。
金吾は昔の仲間の助力もあり、ついに佐橋の居場所を突き止める。折しも、仇討の禁止令が発布され、人殺しが罪となったその日、1873年2月7日それでも金吾は佐橋の前に立つ。佐橋もまた、この時を13年間待っていた。

日本には時代劇があるじゃない

邦画はスケール感で洋画に及ばないというような論調をよく耳にします。確かにCGの技術的には劣っていなくても、全体的なバジェットが桁一つ二つ違う中で、ハリウッドの大作映画には遠く及ばないものがあります。とはいえ、スケールや予算では計れない邦画の良さがあり、その一つが時代劇だと思うのです。
ジャンル的には西部劇に近いものがあるものの、乾いた大地で馬を駆る西部劇とは明らかに趣を異にしています。少し話は逸れますが、近年では西部劇もあまり作られなくなった気がします。否、まだ年に数本は作られているので、快作が少なくなったのかもしれません。
残念ながらそれは時代劇も同じことです。現在までに数多くが作られてきた上において、さらに作ろうとすればハードルが上がるのは確かですからハンデはあります。現代劇に比べるとお金がかかるのもネックになります。時代設定は武士の頃でも、その他の設定はSF並みにぶっ飛んだ作品を時代劇と呼ぶにも抵抗があります。でも、全部言い訳です。いい作品は絶対に作れます。言いきってしまいました。

実のところ、作り手側だけでなく、観る側にも問題がある気がします。時代劇は古臭い、年配者が見るものだ、となんとなく決めてかかってはいないでしょうか。好き嫌いに関わらず、小さな頃から学校で教わるなどして刷り込まれている武士の世界は、やはりどこか日本人の琴線に触れてくるのです。
で、ここまでは前置きとして、ようやく本題を申すならば、「柘榴坂の仇討」は面白いです。公開時はまだしも、今では「そんな作品もあったかもね」程度の記憶になっているだろう本作は、見逃すには惜しい作品です。

仇討という文化

武士道にはいろいろな考え方があり、根幹をなすのが面目です。武士は食わねど高楊枝なわけです。あだかたきを討つというのも、そんな面目に重きを置くゆえです。
仇討は要するに復讐で、大切な人を殺されて許すまじとなった人が、お殿様に免状をもらって仇を討ちに行きます。相手が領内に留まっていないことも多く、長い年月をかけて旅をすることもあります。
復讐であっても成功すれば殺人ですから一応のルールがあり、親族で、しかも親や兄といった目上の人が殺された時におこないます。実は子供や弟、また妻でさえも、当時は目下とされた関係性の人が殺された場合は仇討の免状は出ないのが通例でした。
ただ、江戸時代の風潮としては、武家以外でも仇討を果たせば賞賛されることの方が多かったようですし、反対に仇を討つべき武士がそれを果たせないでいると蔑まれたようです。
仇の腕の方が上であれば返り討ちとなることもあります。水戸黄門などでは奉行所で役人が立会いのもと、武家の妻や子が仇に向かう場面が度々あります。返り討ちにあいそうになると助さん格さんあたりが助太刀してくれるのも定番です。

時代劇の定番「忠臣蔵」も仇討の一つとされますが、主君の仇を臣下が討とうというのは厳密には仇討ではないとする見解もあります。いずれ、人情の極致のようなこの制度が、ドラマチックな物語を生み出してきたのは間違いありません。
世界的に見ても珍しい制度ながら、私刑としてはシチリアのマフィアのように、やはり面目として敵討が大切なおこないとなっているケースも見受けられます。
フランシス・フォード・コッポラ監督の傑作「ゴッドファーザー」シリーズはまさにそうですし、香港ノワールを描いたジョン・ウー監督やジョニー・トー監督の作品でも、しばしば男たちの熱い復讐劇が繰り広げられます。

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武士の生き様と奥方の在り方

この映画には、仇討のみならず武士とその周りの人たちの潔い生き様があります。滅私の中で本懐を遂げようとする志村は忠義の士です。それを支える妻のセツは文句も言わずに寄り添い尽くします。仇である佐橋さえも過去のおこないの責任を全うしようとしています。
ハイライトの一つは、明治となって市民となったかつての武士達が、それでも武士たる心だけは捨てていないのを表すところです。
滅私奉公や男尊女卑といった言葉が通らない現代だからこそ、映画の中で時代劇として楽しんでみるのも悪くないと思える作品です。

作品情報

原題:柘榴坂の仇討(2014)
監督:若松節朗
出演:中井貴一 広末涼子

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