ハッタリでスイスイ世渡りする社員が輝く「ニッポン無責任時代」

調子のいい男を演じさせれば天下一品の植木等が、スーダラ社員を演じつつも上手に世の中を渡っていきます。今の時代にこそ必要ないい具合のいい加減さが込められた映画です。

あらすじを読めば小難しいストーリーに思うかもしれませんが、軽妙洒脱なやり取りの妙を楽しむ映画です。ラストまでネタバレしているのでご注意ください。

あらすじ

競馬ですっからかんになって会社もクビになった平均（タイラヒトシ／植木等）は、下宿代も支払えないない中、持ち前のＣ調（いい加減さと大胆さを兼ね備えた調子いいヤツ）で太平洋酒の氏家社長（ハナ肇）に取り入って再就職を果たす。折しも太平洋酒では山海食品の株価買い占めによる乗っ取りの危機にあった。
社長秘書の佐野愛子（重山規子）には早々に口先だけで入社してしまったことを見抜かれるものの、お手並み拝見と見逃される。乗っ取り対策として大株主の富山社長（松村達雄）を接待して好感触を得る平だが、裏では株のブローカーである黒田（田崎潤）に出し抜かれていた。
そうとは知らない太平洋酒では、平が功績を認められる形になり係長に昇進する。時同じく有志による組合設立の運動が湧き上がり労働組合が結成される。

太平洋酒社員や黒田の行きつけのバーでホステスをしている京子（中島そのみ）は、太平洋酒株買占めの情報を黒田から聞きつけて株を転売して大儲けしようと目論む。しかし、黒田と富山が手を組んだことで乗っ取りは確実な情勢となり、株価が値下がりの気配を見せたことに慌てた京子は平に相談する。
乗っ取り屋の黒田は、太平洋酒を手中に収めることなる山海食品の大島社長（清水元）から太平洋酒の新社長の椅子を約束される。大株主である富山の裏切りが表沙汰になり、平は太平洋酒をクビになる。平のクビに憤慨した秘書の愛子は出来たばかりの組合にストライキを呼びかけるが、形ばかりの組合員たちは乗ってこない。
京子のいるバーでヤケ酒をしていた平は黒田に出会い口先三寸、なんと黒田新社長のもとで見事に太平洋酒に返り咲いてしまう。黒田体制が気に食わない総務部の谷田部長（谷啓）は会社を辞めようとするが、渉外部の部長となった平に引き止められる。平は裏で氏家社長の復帰を画策していた。

氏家元社長の息子の孝作（峰岸徹）とも意気投合している平。その雄一は山海食品の令嬢である洋子（藤山洋子）と恋人で、結婚がうまくいかないなら駆け落ちしてでもと考えていた。
部長になった平のところに京子が開店資金の援助を申し込みにくる。また、元社長の囲っていた新橋の芸者まんまる（団令子）からは車のローンを払って欲しいとのお願いが。二人が平を挟んでやりあっているところに秘書の愛子が許嫁だと割り込んでくる。
突然の乱入に面食らう平だが、結局は愛子と恋仲になる。

黒田新社長にビールの原料であるホップの買い付けを命じられる平。この買い付けには北海物産という厄介な存在が絡んでいた。北海物産は太平洋酒の商売敵の息がかかっていて、これまでは連戦連敗の相手だったのだ。
北海物産の石狩社長（由利徹）を接待するものの、のらりくらりとかわされてしまっている平。黒田は前社長の派閥を徐々にクビ切りしていこうと考えていて、今回の北海物産の取引の成否がそのクビ切りに大きく関わっていた。
クビの危機に渉外部の一同は団結して、女好きの石狩社長を罠にかけて取引の合意を得ようとするが、この小芝居がバレて平は再び太平洋酒をクビになる。

悪びれることなく下宿に戻った平だが、そこには孝作と洋子が二人で訪ねてきていた。政略結婚のお見合いをさせられそうになっている洋子は駆け落ちしようとしていたが、平が一計を案じる。
お見合いの席で替え玉を用意し、洋子の居場所をネタに山海食品の大島社長に対して、太平洋酒への氏家の社長復帰を要請する。黒田社長に不満があったこともあり、娘の大事に大島は氏家復帰を承諾する。しかし平が恋人たちの隠れ家に戻るとそこはもぬけの殻。実は愛子の考えで、平と入れ違いに氏家と大島を含めた親子同士の話し合いが持たれて、晴れて結婚が認められていた。
氏家は太平洋酒の社長に戻されるものの、立ち回った平は大島の不興を買って太平洋酒には戻れない。愛子と京子とまんまるはそれぞれ平を養うというが、嫌気のさした平は姿をくらましてしまう。

一年後、氏家と大島両家の結婚式の会場に姿を現した平は、北海物産の社長になっていた。驚く一同を前に祝辞に立った平は、愛子との結婚を突然宣言するのだった。

稀代のパフォーマー植木等

植木等は父親が住職だったこともあり、自らも僧侶になる修行のために上京します。しかし、お寺での修行とは別に一般の大学へと進む中でコンテストを受けて歌手への道を開きました。
フランキー堺のグループに加入したことをきっかけに、そこからハナ肇や谷啓らとのグループであるハナ肇とクレージーキャッツのメンバーとして人気を獲得していきます。クレージーキャッツはザ・ドリフターズと同じくどちらかといえばコミックバンドの路線で、エンターテインメント性があって、映画界へも進出していきます。
クレイジーキャッツのフロントマンであった植木等を主演として「ニッポン無責任時代」は製作されました。東京オリンピックを控え、高度経済成長の中でモーレツな社員が溢れているところを、スイスイスーダララッタと軽快に世渡りしていく植木等のスーダラサラリーマンは、のちの「日本一の色男」から始まる「日本一」シリーズへと受け継がれていきます。
実のところ、無責任男は２本だけで、のちの「日本一」シリーズでは無責任色が薄れ、調子よくなんだかんだ言いながらも結果的には会社のために奮闘するモーレツ側に回っています。

同時期の東宝映画では、森繁久彌やフランキー堺らの出演する「社長」シリーズも人気で、サラリーマンものとも呼べる喜劇が隆盛でした。中でも植木等は圧倒的なカリスマ性を持っていて、ピンで主演するパワフルさと輝きが見て取れます。
「社長」シリーズでは毎回の宴会芸がお約束で出てくるのに対して、クレージーキャッツの映画ではミュージカル調に彼らのヒット曲を歌い踊るシーンが特徴です。コミカルソングながら社会風刺が効いていて、今の時代に聴いても小気味いいパフォーマンスです。

受け継がれるスーダラでグータラな喜劇

植木等のサラリーマン像を図らずも受け継いでいるのが、松竹映画の「釣りバカ日誌」シリーズです。釣りバカでダメ社員である西田敏行が演じるハマちゃんもＣ調でグータラな訳ですが、そこは映画の主人公として決めるときは決めるところも通じています。ハマちゃんもときに見事に大きな取引をまとめて見せたりして会社の危機を救うのです。
「ニッポン無責任時代」では直属の上司である総務部部長を谷啓が演じています。これもまた鈴木建設の営業三課の課長を谷啓が演じていたのに通じるポイントです。