「ヒンデンブルグ」は大型飛行船の栄光と終焉を見せてくれる


世界的な大惨事として豪華客船タイタニック号と並び記憶されるのが飛行船ヒンデンブルク号です。1年目は見事に世界中を飛び回りましたが、2年目早々のアメリカ到着時に爆発事故を起こして多数の犠牲者を出しました。
映画はヒンデンブルク号の最後のフライトを中心に、独自の爆発原因を仮定して描いていきます。

墜落は有名な事実であるのであらすじはラストまでの流れを記しています。原因の提示はあくまで仮定のものですがネタバレを気にする方はご注意ください。

あらすじ

墜落のおよそ一ヶ月前。アメリカでヒンデンブルク号の墜落を予言する女性。この飛行船が就航しておよそ一年の間、何百通の忠告の手紙をドイツ大使館に送ってきた。真偽はさておきヒンデンブルク号が危険なのは当のドイツ側も認識していた。大量の水素によって浮かばせる飛行船は空飛ぶ爆弾だ。
元空軍大佐のリッターは特別警察ゲシュタポの一員として乗船し監視に努めることになる。彼は戦争へと向かうドイツの現状を憂い、余生を穏やかに暮らしたいと考えていた。何より息子を亡くしたことで軍を辞す決意をするほどのショックを受けていた。

リッターの同室は親衛隊であるSSの男フォーゲルで、船内にスパイなどがいないかを探っていた。
飛行船には富豪やダイヤを密売しようとする者、軽業師など様々な人たちがいる。誰もが怪しくもある中、飛行船は嵐も抜け大西洋を渡っていく。
リッターは飛行船の整備工であるカール・ベルトを怪しいと見ていた。彼の恋人は以前破壊活動に参加していたことがあるからだが、当局は恋人を追い詰めながら自殺を許してしまう。
船内に爆弾が持ち込まれた可能性がありながら、証拠や証言を取れなくなってしまったリッター。このままカールを問い詰めてもシラを切られるだけだ。
ちょっとしたはずみで飛行船の外皮に穴が開き、墜落の危険が高まるものの、これをカールが命がけで修繕する。果たしてカールは何かを企んでいるわけではないのか。
リッターはカールと話そうと決める。死んだ息子と同じくヒトラーユーゲント出身のカールはやはり現状を憂い、飛行船の爆破を計画していた。乗客が皆下船した後、無人の飛行船を爆破するというカールの主張を受け、リッターは彼を見逃す。

飛行船はアメリカへと到達する。着陸基地には出迎えの人々や記者が待ち構えていた。
カールは爆弾をセットするが、その際にミスを犯し、フォーゲルに疑われて乱闘の末殺されてしまう。強風で着陸予定時刻がずれ、時限爆弾の爆発時間が迫る。リッターは爆弾を発見するがそこにフォーゲルが現れる。
果たしてリッターは故意に爆弾を起爆させたのか、それとも。真相は謎だが、ヒンデンブルク号は業火に包まれる。

飛行船の時代の終わり

現在ではほとんど見かけることがなくなった飛行船ですが、ごくごく稀に宣伝用のものが空を飛んでいることがあります。最後に見たのは数年前なので不確かながら、おそらくまだ飛んでいるはずです。
近年はドローンが空を席巻しようかという時代であり、大きくて風まかせな飛行船の存在感は文字通り風前の灯火です。熱気球から始まった飛行船への流れは、飛行機の登場と一般化で終焉を迎えます。
何より、この映画の元となったヒンデンブルク号の爆発事故が決定打となって、その役目を終えたと言われています。映画でも描かれたように、爆発の理由は水素を使っていたことです。水素が爆発しやすい危険な気体であることは当時から誰もが知ることでした。
お祭りで売られている風船には主にヘリウムが入っているように、水素よりも安全なヘリウムは当時でも使われていました。ただ、ヒンデンブルク号ほどの巨大な飛行船を浮かせる量がドイツ国内では手に入らず、他国の輸出規制の問題などからやむなく水素を使用した経緯があります。
水素は爆発しやすく、映画内に描写があるようにタバコを吸うにも特別な場所で厳重な注意を払わなければりませんでした。そうまでしてでも喫煙スペースを設けているところが時代でもありますが。

問題は、起爆の原因です。結論を言ってしまえば、未だによくわかっていません。当時わからなかったことが、この先新証言なども望めない状況で判明することはないでしょう。一応の定説としては静電気に起因する火花が起きて、燃えやすい素材を用いていた外幕に火をつけたとされています。
雷対策もしていたのに静電気でと思うかもしれないですが、事故が起きる時は偶然が重なって最悪の方向へ進むのが定石でもあります。
そして、大きな事故が起これば必ず囁かれる陰謀説ももちろん持ち上がりました。まして時代と場所がナチス時代のドイツなのですから、これは十分にありえそうです。いわゆるテロですが、仮にこれが本当の原因だとしても、国の威信を重んじるかの地では、この証拠があったところで表には出なかったと思われます。

原因はさておき、爆発は起き、ニュース映像は世界を駆け巡り、大惨事の様子は人々に大きな衝撃を与え、結果として飛行船の時代は終息を迎えます。
もちろん、これが全てではなく飛行機が取って代わったのも確かです。当初は飛行船ほどの輸送力はなかった飛行機も徐々に巨大化が進み、全長は飛行船よりも圧倒的に少ないながら何百人も運べるようになり、風の影響もほとんど受けなくなるのですから仕方がありません。

事件事故とエンタメである映画

映画「ヒンデンブルク」では自然発生的な原因や事故ではなく、陰謀やテロがあったとするストーリーを構築しています。ドキュメンタリー映画ではないので、ミステリー仕立てにしつつ観客の興味をあおることに成功していると言っていいでしょう。
ただ、リッターが直前まで爆弾を止めようとしていたのは確かです。フォーゲルがやってきた一瞬でヒトラーの時代を止めなければと思い起爆させたのか、どう見ても単に操作を誤ったわけではなさそうですが、リッターの複雑な心の内を描いてきつつも、明確な解は観客に委ねた状態で爆発は起きます。

このサイトでもいくつか取り上げているように、実際の出来事をベースにした映画は数多くあります。そのほとんどは細部まで現実通りではなく、映画的なアレンジを加えたものになっています。アレンジの良し悪しはさておき、真相が解明されていないものに対しては映画なりの答えを提示したり、少なくとも暗示することが必要です。
未解決の事件ものとして日本では三億円事件に関する作品があります。犯人を追う警察側から描くのが多いながら、犯人を仮定して描いた作品もあります。中でも突飛な発想で話題になったのが宮崎あおい主演の「初恋」でしょう。未解決なので受け手も想像を膨らませる楽しみがあります。
事故や災害は事件以上に映像化がセンシティブな場合があります。より多くの人命に関わることになってくるからです。それでも洋画であれば9.11の同時多発テロなど、積極的とも見える映像化がなされています。

全く謎の出来事としては旧ソ連で起きたツングースカの大爆発が有名です。1908年に起きた森林地帯の大爆発の原因が隕石であると特定されたのは2013年になってからで、その不気味さから数多くの憶測と作品を生んできました。
同じく旧ソ連のウラル山脈ディアトロフ峠で1959年に起きた遭難事故に関しては、現在に至るまでその原因が特定されていません。


死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

ロバート・ワイズ

「ヒンデンブルク」を監督したロバート・ワイズは、ハリウッドを代表する映画監督の一人です。「サウンド・オブ・ミュージック」「ウエストサイド物語」アカデミー賞の監督賞に輝いたわけですが、ミュージカル映画ばかりを得意としているわけではありません。ときにはSF映画の名作とされる「アンドロメダ…」「スター・トレック」を監督し、初期にはオーソン・ウェルズ監督の不朽的名作「市民ケーン」で編集を担当していました。
幅広い作風の中にはサスペンスものも含まれていて、「ヒンデンブルク」はキャリア後期の集大成的な作品でもあります。超大型の飛行船ヒンデンブルク号を実物大に再現し、人為的な爆弾による陰謀説を採用して優雅な空の旅と緊張感のある犯人探しを並行させています。
当時のニュース映像を交えながら、あたかも一緒に飛行船に乗り込んでいるようなリアリティーを感じさせてくれるのはさすがです。

作品情報

原題:The Hindenburg(1975)
監督:ロバート・ワイズ(Robert Wise)
出演:ジョージ・C・スコット(George C. Scott) アン・バンクロフト(Anne Bancroft)


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