「キル・ユア・ダーリン」で描かれる伝説的ビートニクたちの青春


ビート・ジェネレーションと呼ばれた詩人や作家たちのムーブメントは、コロンビア大学の学生二人の出会いから始まりました。やがて殺人事件にまで発展する青春の苦悩と輝きが詰まった映画です。

あらすじはラストまでの流れが記してあります。ネタバレを気にする人はご注意ください。

あらすじ

第2次世界大戦のさ中、アレン・ギンズバーグの母は強迫症から詩人の夫に見張られていると怯えていた。母の心の支えとなりつつも大学で詩を学びたいと願うアレンは、密かにコロンビア大学を受験し合格する。父の後押しもあり、入学するアレン。
入学してすぐ、アレンは校内で自由奔放に振る舞うルシアン・カーと出会い心惹かれる。型通りの授業に早々と疑問を感じたアレンはルシアンと行動を共にする。ルシアンに連れて行かれたパーティーでウィリアム・バロウズと、家主のデヴィッド・カマラーを紹介される。
ルシアンの提案で、台頭しているファシズムに対して言葉と文字で戦いを挑むグループを結成し、アレンはそれをニュー・ビジョン(新幻想派)と名付ける。
ルシアンとアレンとバロウズは創作の世界に浸っていくが、デヴィッドはアレンを毛嫌いしルシアンと引き離そうとする。デヴィッドは同性愛者で彼から逃げたいと話すルシアンだが、彼はデヴィッドが書いたレポートを提出することで成績を維持していた。

ルシアンたちとの日々で母のことを忘れていたアレン。母は施設に入院させられてしまう。
ルシアンはグループに新たなメンバー、ジャック・ケルアックを引き入れる。大学を中退し付き合っている女の家で暮らすジャックは、アレンたちのやっていることは遊びに過ぎないと言い放つ。しかし、アレンの才能を認め彼らは親交を深めていく。
彼らの活動は過激になっていき、ついには退学の危機が訪れる。デヴィッドはルシアンを守ろうとするが、ルシアンは彼を突き放す。アレンはルシアンに友情を超えた愛情を感じ始めていたものの、ルシアンがジャックと旅立つことを知り、それをデヴィッドに伝える。

ルシアンがデヴィッド殺害の容疑で逮捕された。ルシアンが助かるためには陳述書が必要だが、ルシアン自身には作文の才能がなく、彼はアレンに嘘の陳述書を仕上げて欲しいと頼む。ルシアンへの想いから一度は引き受けるアレンだが、彼の過去を調べるうちに疑問を感じる。
やがてはデヴィッドのように捨てられるのではないかと悩んだアレンは施設にいる母を訪ねる。すっかり正常な精神状態を取り戻した母は、ルシアンを立ち直らせるためにも彼を見捨てるべきだとアドバイスする。
殺害の夜の真実を記した文書を検事の元に持ち込むアレンだが、寸前で思い直し、小説として大学への課題代わりに提出する。しかし、その猥雑さを学校は認めず、彼は退学を決意する。
世の中では、第二次世界大戦が終わろうとしていた。

ビート・ジェネレーション

ビートニクとも呼ばれるムーブメント、ビート・ジェネレーションは現在ではピンとこない人も多いのはではないでしょうか。ベトナム戦争の頃のヒッピー文化と密接に関わっていると聞けば時代感はつかめるかもしれません。
乱暴にまとめれば自由と自分探しを文学界発信で提唱したようなムーブメントであり、その中心とされたのがジャック・ケルアックウィリアム・バロウズ、そしてアレン・ギンズバーグたちです。この映画ではアレン・ギンズバーグを主人公にして、彼がルシアン・カーと出会うことでケルアックやバロウズと人生を共にするきっかけをつかむまでが描かれています。
つまり、ビートニクのはじめの一歩、エピソード0というわけです。ただし、そこはアメリカ映画のうまいところで、実話をベースにしながらもドキュメンタリーとして史実に忠実に描くことだけを目的とはしていません。

「キル・ユア・ダーリン」でビート・ジェネレーションに興味を持ったのであれば、アレン・ギンズバーグやウィリアム・バロウズ本人が出演している1999年のセミドキュメンタリー映画「ビートニク」(原題:the Source)を見てみるのもいいと思います。映画「ビートニク」ではジョニー・デップがジャック・ケルアックを、デニス・ホッパーがウィリアム・バロウズを演じる再現シーンを楽しむこともできます。

例えばビートルズのようにバンド単位のグループで活動していなくても、のちに伝説的な存在となる人たちはつるんでいた時期があることが少なくありません。古くはハイドンモーツァルトなどクラシック音楽の世界でもありましたし、有名なゴッホゴーギャンのような画家のつながりもあります。
ビートニク以前にも文筆家たちがサロンに集うのは珍しくなく、トキワ荘の漫画家たちもグループ活動をしていました。
天才肌は孤独なイメージがあると思いきや、意外と仲間がいて研鑽しあっているものなのです。

その後の人生

映画のラストにテロップで彼らのその後が語られています。
いずれも有名な人々なので詳細は簡単に調べられますが、記しておきましょう。

ルシアン・カーは刑期を終えて、UPI通信の記者になり生涯を送ります。
アレン・ギンズバーグはアメリカで最も成功した詩人と称されるまでになりました。
ジャック・ケルアックは「路上(オン・ザ・ロード)」を執筆するなどビートニクの中心的存在となります。
ウィリアム・バロウズは「裸のランチ」を執筆するなどしてやはりビートニクの中心となり、SF小説も著します。
ケルアックとバロウズはルシアンの事件を元に「そしてカバたちはタンクで茹で死に」を1945年に共著したものの、発禁処分が解けて出版されたのは2008年になってからでした。


オン・ザ・ロード スクロール版 [ ジャック・ケルアック ]


裸のランチ (河出文庫)


そしてカバたちはタンクで茹で死に [ ジャック・ケルアック ]

作品情報

原題:KILL YOUR DARLINGS(2013)
監督:ジョン・クロキダス(John Krokidas)
出演:ダニエル・ラドクリフ(Daniel Radcliffe) デイン・デハーン(Dane DeHaan)


ビート・ジェネレーション ジャック・ケルアックと旅するニューヨーク (P-Vine BOOks)


麻薬書簡 再現版【電子書籍】[ ウィリアム・バロウズ ]

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