「カプリコン・1」の火星有人探査に隠されたデタラメとは


アポロ計画の月面探査に関する都市伝説をベースにして、作り上げられた虚構の中で苦悩する人と、真相を探ろうとする人の姿をドキュメンタリータッチで描きます。映画もテレビも虚構の世界ですが、人々にとっては嘘も真実も自分で選ぶことなのかもしれません。

以下、映画のとっかかりとなる嘘に関してや、ストーリーの結末など、ネタバレありなので見る前に知りたくない人はご注意ください。

あらすじ

1月4日
NASAの有人火星探査に挑む3人のクルー、チャールズ・ブルーベイカー大佐、ピーター・ウィリス中佐、ジョーン・ウォーカー中佐。
発射を見守る席には家族や副大統領にホリス・ピーカー議員らがいる。管制室ではカウントダウンが進み、責任者のジェームス・ケラウェイ博士が目を光らせる。
最終チェックが進む中、突然男が緊急事態だと司令船の扉を開く。わけのわからないまま小型ジェットに乗り込んで移動するブルーベイカーたち。
謎の施設の一室で待つ彼らの前に姿を見せたのはケラウェイ博士だった。
利益のために製作費をケチった生命維持装置の開発会社が納品してきたのは欠陥品で、そのまま宇宙に出れば3週間で飛行士たちは死ぬという。
2ヶ月前に事態が発覚した時点で、すでに中止の選択肢はなかった。人々は宇宙に無関心で、大統領も非協力的、ましてや議会の風当たりは日頃から強く、ことが公になれば宇宙開発は大打撃を受ける。
ケラウェイは施設内の広大なスタジオにブルーベイカーたちを連れていく。そこには火星に見立てたセットが組まれていて、実物大の着陸船が用意されていた。
火星上陸の瞬間と司令船の中からのテレビ中継だけここから映像を送れば、他の通信は訓練のときのものを使うというケラウェイ。
ブルーベイカーたちは馬鹿げていると一蹴するが、ケラウェイもまたこの偽装工作の駒の一つでしかなく、彼らが断れば家族の命がないと脅され、承諾するほかないのだった。

3月16日
飛行管制室の通信オペレーターの一人であるエリオットが、ケラウェイ博士の部下のバーゲン博士に、宇宙船の通信電波がテレビ放送の電波よりも近くから発信されていると報告する。
エリオットが独自に計算した結果だが、バーゲン博士はエリオットのコンピューターは回路に不具合があるから修理させると答えるのだった。

5月14日
カプリコンが火星に着陸する。沸きかえる管制室の一角でエリオットが今度はケラウェイ博士に通信電波の疑問を報告ものの、ケラウェイはわかったと返すのみ。
ブルーベイカーたちクルーの上陸の準備が済み、着陸船のハッチから降りてくる映像が届く。
もちろん、映像はスタジオで撮影されているもので、スローモーションなどを巧みに使い、いかにも重力の少ない感じを演出している。火星の大地に見立てたセットに星条旗を立て、大統領からのメッセージを聴くブルーベイカーたち。
その夜、エリオットがバーに来て、友人で記者のコールフィールドに、通信電波の出所に関して計算が合わないと話す。だが、コールフィールドが自分にかかってきた的外れな電話に出ている間に、エリオットの姿は消えていた。

7月22日
帰還の途についた司令船の中と、管制室にいる家族とのテレビ電話による通信がおこなわれる。
家族を守るために、嘘を隠し会話をするクルーたち。ブルーベイカーは葛藤しながらも、妻のケイと当たり障りのない会話をし、地球に戻ったら去年のようにヨセミテに家族でいこうと告げる。
それを聞いたケイが少し怪訝な表情を浮かべる。記者のコールフィールドは、その様子に少し違和感を覚えるのだった。
コールフィールドはバーから突然消えてしまったエリオットを探して、彼のアパートへやってくる。しかし、何度も訪れたことのあるその部屋には、見知らぬ女性が住んでいた。
困惑して帰路につくコールフィールドだが、ブレーキが効かず車ごと堤防から海へと落ちてしまう。九死に一生を得て陸に上がってくるコールフィールド。

9月19日
いよいよ地球帰還の日。着水予定地点をずらして、回収船が到着する前にブルーベイカーたちが司令船に乗り込む算段だ。これが終われば英雄として迎えられ、後は家族と再会して元の暮らしに戻ればいい。
数ヶ月軟禁されていた施設から小型飛行機で密かに着水ポイントへと向かうブルーベイカーたち。
その頃、司令船は耐熱シールドが剥がれて、大気圏突入の熱に耐えられず燃え尽きていた。当然、クルーたちの命もない。騒然となる管制室。
実際にはブルーベイカーたちは別の場所にいるのだが、言い出せるはずもなく、ケラウェイ博士は思案する。
状況が伝えられないまま、再び施設へと戻されたブルーベイカーたちは、再突入時の事故で自分たちが死んだことになっているのだと理解する。
きっとこのまま自分たちは本当に殺されてしまうと確信したブルーベイカーたちは部屋を抜け出し、小型飛行機を奪って逃走する。
燃料切れで荒野の真ん中に不時着したブルーベイカーとピーターとウォーカー。彼らは、誰か一人でも生き残って真実を伝えようと、三方に分かれて歩き出す。

ブルーベイカーと妻のケイのやり取りに疑問を感じていたコールフィールドは、ブルーベイカーの家を訪ね、ケイに質問する。通信では去年ヨセミテにいったと話していたが、実際に家族旅行をしたのはフラット・ロックだった。
ブルーベイカーがなぜそのような間違いをしたのか、コールフィールドは西部の開拓時代を再現した町のあるフラット・ロックを訪れる。
何者かにライフルで襲撃されるコールフィールド。

飢えと渇きに苦しみながら、それぞれ荒野を歩いていく3人。ヘリで彼らを探す一味に、ウォーカーが捕まってしまう。

フラット・ロックから戻ったコールフィールドは、再びケイを訪ねて詳しい話を聞く。ケイは、去年家族でフラット・ロックにいった時に映画の撮影をして、それを見ながらブルーベイカーが、これならどんな嘘も作り出せると言っていたという。

ピーターは命がけで険しい崖を登るが、頂上で待っていたのは一味のヘリだった。
信号弾が上がり、仲間たちが捕まってしまったことを知るブルーベイカー。

コールフィールドは極秘のネタを追っていると編集長を説き伏せて取材を続けるが、FBIに家宅捜査を受け、コカイン所持を捏造される。編集長はコールフィールドを釈放させたものの、彼の話を信じずクビを言い渡す。
コールフィールドは独自の調査を続けるために、元カノに頼んでエリオットの割り出した通信電波の発信エリアにある軍事施設を調べてもらい、ジャクソンという閉鎖された訓練施設があることを知ると、彼女のスポーツカーを借りて走り出す。
施設はもぬけの殻だが、ケイが夫のブルーベイカーに贈ったペンダントを見つけたコールフィールドは、アルベインという男の農薬散布をする小型機に乗せてもらい、空からブルーベイカーを探すことにする。

ポツンと放置されたガソリンスタンドを見つけたブルーベイカーは家に電話をかけるが、ケイと子供たちはブルーベイカーたちの葬式に出席するために留守にしていた。
そこに着陸してくる一味のヘリ。ブルーベイカーが逃げ出したところに、コールフィールドの乗る小型機が着陸してくる。必死に翼にしがみつき、空へと逃げるブルーベイカーたち。
ヘリも追ってくるが、アルベインの巧みな操縦で、ヘリを墜とすことに成功する。

クルーたちの葬儀式典会場に一台のスポーツカーがやってくる。中からブルーベイカーが降りてきて家族の元へと走り出す。

映画の構成

壮大な物語に対して説明が少なく、大筋では何が起きているのかわかっても、真相は掴みきれません。
一見不親切のようで、実は映画の内容がまさにそうした詳しい説明のない中で翻弄される人々を描いているので、映画を見ている人もドキュメンタリーに近い感覚になり、事態の背後は登場人物と同様に情報の断片から探るしかありません。
有名なウォーターゲート事件を基に作られた「大統領の陰謀」も、裏側を見せきることなく、観客は新聞記者と一緒に事実を探る感覚になります。
もっとも「大統領の陰謀」の場合は、事件の性質上、映画製作時点では詳細が明らかになっていなかったという事情もあります。

「カプリコン・1」の一番の謎は、誰がこの茶番とも言える隠蔽工作を主導したかです。ケラウェイ博士を操っていたのは誰なのか。
映画内で直接の描写はないものの、かなり濃く匂わせているのはホリス・ピーカー議員の首謀説です。一議員に軍やFBIをここまで大規模かつ秘密裏に動かす力があるかは疑問ですが。

本作は前半と後半で別の物語になったかのように、主人公と主題が変わります。
前半はブルーベイカーを中心として、火星探査は真っ赤な嘘で、スタジオで撮影していたという話です。後半はその陰謀の存在を追うコールフィールドが主人公となります。
大掛かりな隠蔽工作に対して、火星への数ヶ月に及ぶ旅の描き方は実にあっさりとしたものです。また、真相が暴かれた結果がどのようになるかも明かされていません。
大スキャンダルになるのは確かですが、その直前で映画は終わります。

ところで、日本での表記はカプリコンとなっていますが、どちらかというと発音はカプリコーンとなります。カプリコーンは山羊座のことです。この星座の軌道にちなんだ南回帰線を意味する単語でもあります。

元ネタ

映画は明らかにアポロの月面着陸に関する都市伝説をベースにしています。アポロは実際には月に行っていないで捏造されたものだという主張で、これを実話と捉えて映画化したわけです。
アポロ計画の当時は、不鮮明な映像と、鮮明すぎる写真があり、捏造や陰謀だと主張する人たちはそれに写っているものを根拠に様々な説を唱えました。
何を真実とするかは人それぞれですし、本当のことは自分で経験する以外にはわかりません。確かに情報操作による隠蔽は、戦争や原発事故など、決して難しいことではありません。
とはいえ、「カプリコン・1」で描かれたような方法で月面着陸が捏造できたのでしょうか。
少なくとも現在くらいにCGの技術が発達していればもう少し偽造も容易になるものの、当時の特撮技術で現在まで嘘をつき続ける映像や写真を作ることはできないとするのが通説です。

いくつかの捏造説とその反証がなされている中で、例えば、どうしてアポロ計画で使った着陸船の台座などが地球から見えないのかというものがあります。地球どころか、月の上空から綺麗なハイビジョン映像を送ってきた、日本の人工衛星かぐやでも撮影できていません。
しかし、あのハイビジョンでさえ、解像度は8m程度と言われているので、それより細かい形は認識できずぼんやりとした映像にしかなりません。その後、アメリカが解像度1mほどの人工衛星で月面を捉えた写真には着陸船の台座などが映っています。
ただし、そもそもNASAが月面着陸を捏造したとするなら、こうした証拠もまた信用を得ることはできないのでしょう。

さておき、実は「カプリコン・1」もまた、月面着陸の捏造説を助長する要因になっているのは興味深いところです。つまり、この映画で捏造説が広がり、噂が人々に伝播する間にさも本当の話であるとされてしまうのです。
テレビでアポロ計画の捏造を扱ったエイプリルフールのフェイク番組が、本当のドキュメンタリー番組と勘違いされたこともあります。

似た話で、火星人襲来のラジオドラマが、本当の襲来と勘違いされた実話もあるくらいです。

作品情報

原題:CAPRICORN ONE(1977)
監督:ピーター・ハイアムズ(Peter Hyams)
出演:ジェームズ・ブローリン(James Brolin) エリオット・グールド(Elliott Gould)

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