「バーニング・オーシャン」では描かれなかった深刻な事態とは


アメリカで実際に起きた石油採掘施設の爆発炎上事故の実話を基にした映画です。事故の背景などを描くよりも、ほぼ爆発当日に絞って、炎からの脱出を描いています。緊迫感溢れる映像はどのように撮影されたのか、事故のあらましと合わせて紹介します。

現実に起きた事故であり、ストーリー的に隠されたネタバレ要素はほぼありませんが、鑑賞前にラストまでの顛末を知りたくない人はご注意ください。

あらすじ


妻と娘を家に残し、仲間とともに海上の石油採掘施設ディープウォーター・ホライズンに戻ってきた整備責任者のマイク。
入れ替わりで帰っていったメンバーは、請け負っていたはずのコンクリートテストを行っていなかった
テストが不要と判断したのは、採掘事業を取り仕切るBP社のカルーザ。
スケジュールを優先し、テストをないがしろにするカルーザに憤りながら、飲み込まざるをえないリーダーのジミーとマイク。
施設はあらゆる箇所が故障だらけ、圧力テストでは不可解な数値が出たが、BP社は作業の強行を指示する。


ジミーが無事故勤続の表彰を受けた夜、石油が逆流して噴出する。
一度は治まったかに思えた噴出だが、再び猛烈な勢いで噴出を始め、ついには負荷に耐えられなくなったタービンからの引火で爆発してしまう。
瞬く間に炎に包まれるディープウォーター・ホライズン。


操舵手のアンドレアは、被害を食い止めようとパイプラインの緊急停止をしようとするが、コントロールルームのリーダー代行に、権限もないのに勝手なことをするなと止められてしまう。
マイクは負傷したジミーを見つけ、コントロールルームへと連れていく。
ディープウォーター・ホライズンからの全員退避を決めるジミー。
マイクは、逃げ遅れた作業員がいないか確認していく。

最後の救命ボートが降ろされた時、マイクとアンドレアはまだデッキに取り残されていた。
流出した石油によって洋上にも炎が広がる中、マイクは高所からダイブすることで炎の向こうへ着水するしか助かる道はないと知る。
躊躇するアンドレアを押し出した後、マイクも海へとジャンプする。

九死に一生を得たマイクは、病院で妻子と再会する。
その後、マイクが海へ戻ることはなかった。

海上の石油掘削施設

石油の採掘は、中東の砂漠地帯でおこなっているイメージが強いかもしれません。
確かにサウジアラビアなどの石油埋蔵量は莫大ですし、重要な産出国です。
一方で、地球表面の7割を占める海の底にも、多くの石油が埋まっています
これを吸い上げるには相応の施設がなくてはなりません。
その施設は、プラットフォームリグと呼ばれます。

固定したプラットフォームを作ることができます。
一方で、海底までの距離があったり、荒れやすい海の場合は、船のように浮かせた方がかえって安定します。

映画の舞台となるディープウォーター・ホライズンも、半潜水式プラットフォームと呼ばれる浮島型です。
ルイジアナ州のメキシコ湾上にあって、沿岸からは76キロメートル離れ、海底までの距離は1580メートルもあります。
ディープウォーター・ホライズンには操縦士が乗り込んでいて、採掘予定の直上に位置するように状況に応じて操舵をおこなっています。


沖合に浮かぶリグに人や物資を運ぶためには、ヘリコプターや船を使わなくてはなりません。
大型施設の場合は、常時100人以上がリグ上で数ヶ月にわたる生活を続けています。
石油という危険物を取り扱っているので、爆発の可能性は常に隣り合わせですし、時には嵐によってプラットフォームが転覆する事故が起きることもあります。

映画の撮影にあたって、ディープウォーター・ホライズンを再現したリグのセットが、実際にルイジアナの海上に建造されました。
本物さながらの巨大なリグですが、もちろん映画撮影のためだけのもので、採掘に使われることはありません。
スクリーンに映し出されるリアリティーには、このセットが大きく寄与しているのです。

環境への甚大な被害

ディープウォーター・ホライズンの事故では、石油を吸い上げるパイプが折れ、採掘していた石油が海に流出します。

映画では施設の爆発炎上と、そこからの脱出という、現場作業員にスポットを当てた物語になっています。
11名という作業員が命を落とした爆発炎上事故であり、それだけでもアメリカ史上トップクラスの石油事故なのは間違いありません。
ただし、世間的にこの事故が語られるとき、施設の爆発以上にスポットを浴びるのが石油流出の問題です。

映画の中ではラストにテロップで簡単にまとめられているだけですが、事故後に流出を止めるまで87日間を要しています。
その間に流出した石油の量は、概算で78万キロリットル
一般的なドラム缶は容量が200リットルなので、ドラム缶換算すれば390万本分となります。


また、海上の流出面積は試算によって異なるものの、最も広く見積もったものだとおよそ2万4000平方キロメートルに及ぶとされています。
四国の面積がおよそ1万8800平方キロメートルですから、それよりも広い範囲に石油が漂って海を汚染したのです。

石油はプラスチックの原料やガソリンの原油などとして使われ、日本における1日あたりの消費量は、外務省発表でおよそ64万キロリットルです。
78万キロリットルもの流出量が、2日と保たない消費量分なのを多いと取るか少ないと取るかはわかりません。
それでも環境破壊としては、計り知れない被害を与える原因になるのは確かです。

訴訟という後始末

事故による人的被害と環境被害に対して、賠償を求める訴訟がいくつも起こされました。
責任の所在は単純ではないですが、映画でも描かれたように、事業の中心にいたBP社の社員として現地で強行な指示をしたカルーザとヴィドリンの罪は大きいように思います。
実際に故殺罪で起訴されたものの、後に起訴は取り下げられてしまいます。


しかし、個人はさておき、BP社の責任は明らかとされ、BP社は和解金や海上と沿岸の清掃費用を支払っています。
その総額は、1ドル110円程度のレートで、およそ5兆円です。
もともと有事の際の賠償に充てるためにBP社で積み立てていたのは、およそ2兆円でした。
そのため、4兆円とも5兆円ともされる資産の売却を余儀なくされたのです。

はっきり言って5兆円だのと言われても、想像の範疇を遥かに超えていて、庶民には全くピンときません。

作品情報

原題:DEEPWATER HORIZON(2016)
監督:ピーター・バーグ(Peter Berg)
出演:マーク・ウォールバーグ(Mark Wahlberg) カート・ラッセル(Kurt Russell)

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