「ハイジャック」の手法も解決も大味になってしまった理由とは?

ファイナルアプローチ
壮大な展開と大胆な犯罪がありながら、どうにもヤキモキしてしまう結果が残念な映画「ハイジャック」は、テレビ映画として作られたものです。豪華な2時間ドラマといったところですが、お金のかけ方も時間のかけ方も日本の2時間ドラマとは桁違いです。
そのスケールと同様、内容も大味となってしまったのを残念に思いつつ、見所がなかったかと言えば、さにあらず。捨てがたい魅力を秘めた作品でした。

あらすじとツッコミ

FBIのジャックは立て篭り事件の現場で犯人の説得に当たっていたものの、部隊の強行突入で人質を死なせてしまい職を辞す。再就職は思うようにいかない。

よく見る導入です。交渉人などが映画の冒頭で犯人よりも上司とのやり取りをミスって、最悪の結果を招いてトラウマになる系の導入は珍しくありません。とはいえ、主人公の過去や技術、考え方など、一通りの紹介を済ませることができるパターンとして重宝します。

FBIが、張り込んでいた犯罪者たちにまんまと逃げられる。犯罪者たちは乗り込む飛行機の地上スタッフを買収していて、貨物室に銃器と仲間を潜り込ませている。ジャックもこの飛行機に乗り合わせている中、ハイジャックされる。
同じ頃、地上では銀行家の妻の誘拐事件が二件発生。ハイジャック犯がピックアップした乗客二人を貨物室に移動させる。この二人は妻を誘拐された銀行家だが、ハイジャック犯は捜査を撹乱させるため収監中の大物囚人の釈放を要求する。
ジャックは、偶然にも隣の座席に座っていた航空技師の手を借りて、政府関係で働く妻に連絡する。犯人のフェイク要求に振り回される政府は、ジャックからの犯人は金目的だという情報を取り合わない。

機内で隣に飛行機の専門家が座っているのはご愛嬌として、携帯を簡単に隠し持っておくことができたり、パソコンをネット回線とつないだりとやりたい放題で、さすがにご都合主義と言われても致し方ない事態です。ではありますが、それを言うのも野暮でして、主人公らしい活躍に期待しようではありませんか。
それにしても、ジャックがハイジャックに遭遇するって、ややこしいですね。

機内には爆弾が仕掛けられているというのでジャックが解除に乗り出すものの、乗客の密告によって、サポートしていた技師のパソコンが壊されてしまう。議員の取材で乗り合わせていたテレビクルーの盗撮中継で事態が世間にも明るみになる。
妻の命と引き換えに銀行家は犯人の口座に大金を送金する。お金を車に積んで移動する地上にいる犯人の仲間たち。人質となっていた妻たちはFBIが突入して救助する。
機内ではジャックを助けていたCAが犯人の人質になり、犯人とスカイダイビングで離脱させられる。操縦士を殺されたジャンボジェット機内に残されたジャックたちだが、航空技師が操縦席に座り、なんとか着陸に成功する。

物語もクライマックスが近くなってきます。計画的でハイテクな犯人なのに、最終的にはネットバンキングではなく、車でお金というか有価証券を輸送します。もっと安全な方法がある気もしますが、おそらく最適な方法なのでしょう。車は当然FBIに追跡されるものの、物語の前半と全く同じ車すり替えテクニックで追撃をかわしてしまいます。FBIは一生この方法で騙せる気がしてなりません。
ジャンボ機からのスカイダイビングを、犯人はまだしも素人のCAが強制的とはいえ、タンデムではなく単独で成功させるのには違和感が拭えません。さらには万能感あふれる航空技師が比較的容易にジャンボを着陸させてしまいます。ただ、飛行機パニックものにおいては、ほぼ素人が操縦桿を握るのは定番なので言いっこなしです。

犯人は飛行機の廃棄場に逃走用の小型機を用意しており、着陸したジャックと、通報を受けたFBIもそこへと向かう。銃撃戦の末、犯人を殺害逮捕し、一件は落着するのであった。

無事解決です。大団円です。犯人は小型機を離陸させる時間があったとも思いますが、その場合、ラストは離陸失敗で激突炎上全員死亡のパターンですね。
機内では散々世話になったCAですから、ほのかなラブストーリー展開も予見させる感じだったのに、地上で妻と再会するやCAの存在は空気となります。不倫、駄目、絶対。

これはもはや別の作品ではないのか?

この作品はテレビ放送用のもので、エピソードを二つに分けて、2夜連続スペシャルドラマみたいな放送をされたようです。トータルで240分と長尺なオリジナルを、日本で洋画としてテレビ放送した際は2時間枠に収めていました。ばっさり半分にカットした計算になります。
よく言えば丁寧に作られているので、余分なシーン、いえ説明的なシーンをカットすることはできます。それでも半分にするというのは大胆で、ところどころ意味がわからなくなるといいますか、あっさり解決してしまうエピソードも多々ありました。誘拐された妻の救出はシンプルになっていますし、機内の様子にしても端折っています。

何れにしても、この手の作品の楽しみ方は、お約束のパターンをネタとして受け入れられるかどうかにあります。主人公は孤軍奮闘して犯人に立ち向かい、爆弾が出てくれば、どの線を切るか考えなくてはいけません。上司は押し並べて無能揃いで邪魔ばかりします。早々にストックホルム症候群にかかって、犯人に味方する出しゃ張りが登場します。
全てを、受け入れるのです。そこから道は開けるのです。駄作なんてないのです。

演者はAクラス?

B級と侮ってはならないポイントは、出演者の豪華さにも見られます。
ジャックの妻を演じたリー・トンプソンは、大ヒットシリーズ「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロレイン・マクフライや、「ハワード・ザ・ダック」のビバリーなど、数々の映画でヒロインを演じました。
ウィリアム・フォーサイスにしても、いぶし銀のバイプレーヤーで多くの話題作に出演してきました。
脇を固める役者の演技がしっかりとしているため、なかなか見応えのある作品となっております。

作品情報

原題:FINAL APPROACH(2007)
監督:アーマンド・マストロヤンニ(Armand Mastroianni)
出演:ディーン・ケイン(Dean Cain) アンソニー・マイケル・ホール(Anthony Michael Hall)

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