「ノウイング」を見て感じる絶望と、その先にある希望とは?


スリラーやホラーのテイストで始まる「ノウイング」は、SF映画でした。そして、父と息子の物語でもありました。一体地球に何が起きているのか、そして何が起きるのか、ラストまで全貌が見えることなく、見事なストーリーテリングに引き寄せられます。

最後まで何が起こるのかわからないのが本作の魅力の一つですが、あらすじではラストまでをネタバレありで記しています。
鑑賞前に知りたくない人はご注意ください。

あらすじ

1959年、創立したばかりの小学校で50年後に開けるタイムカプセルに入れるため、生徒たちが未来を予想した絵を描いている。
皆が夢のある絵を描いていく中、少女ルシンダだけは数字の羅列を紙いっぱいに書き記す。
記念式典の後、ルシンダが行方不明になり、校内の用具室で発見される。
ルシンダは「ささやく声を止めて」と震えていた。

2009年、マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授ケストラーは、妻を亡くし、息子のケイレブと二人で暮らしていた。
息子の小学校では創立50周年の式典でタイムカプセルが開けられ、ケイレブはルシンダの書いた数字の紙を手にする。
軽い気持ちで紙に書かれた数字を調べてみたケストラーは、その数字が過去に起きた事件、事故、災害の日付と死者の数であることを突き止める。
初めはその説を信じていなかった仲間も、未来の日付として記されていた航空機事故が実際に発生し、死者数が一致したことで予言を信じ始める。

ある夜、黒づくめの男がケイレブの枕元に立ち、世界が燃える様子を見せる。
夢か幻か、恐怖に駆られてケイレブが叫ぶ声を聞き息子の元に駆けつけたケストラーは、窓の外に黒づくめの男が立っているのを見つける。
何かが起きているのは間違いないと、ケストラーは調査を進める。
数字を書いたルシンダは死んでいたものの、その娘ダイアナの居場所を突き止め、ケストラーは会いに行く。
ケストラーは協力を頼むが、関わりたくないダイアナは拒絶する。
新たな予言の日、テロ予告が出ているのを知ったケストラーはFBIに情報を提供するものの、疑われるだけで取り合ってもらえない。
そして地下鉄でテロが起き、予言通りの死者が出る。

最後の日付である10月19日を前に、ケストラーが再びダイアナに協力を求めると、彼女は母親の予言について話をしてくれる。
ルシンダが生前に暮らしていた家に行ったケストラーとダイアナは、予言書の文末に記されているのは全人類への警告だと知る。
10月19日に人類が滅亡するということなのか、ことの重大さが信じられないケストラーたち。
MITに戻ったケストラーは、近いうちに太陽の異常活動が起きることを突き止めた。
その規模の太陽活動が起これば、人類に助かる術はない。
一縷の望みで逃げ場となりそうな洞窟を目指すケストラーたちだが、街ではパニックが起ころうとしていた。

そして、ケイレブの前には又しても黒づくめの男たちが現れる。
男たちは地球人類をすくためにやってきた異星人だった。
やがて磁気嵐が吹き荒れ、地球を大変動が襲う。
ケストラーはすべてを悟り、ケイレブを男たちに託す。

地球は滅亡し、別の星でケイレブは他の子らと人類の新たな歴史を刻み始める。

映画のテイストとは

「ノウイング」は見ているうちにドンドンと印象が変わっていく映画です。
ホラーテイストで幕を開けたかと思うと、父と子の家族ドラマのようにも見え、謎解きのミステリースリラーに感じ、終盤からはSF色が濃くなっていきます。
本来は、あまり色々なジャンルが混在すると軸がぶれがちなのに、この作品ではそれを感じません。
終始一貫して地球的な規模で何かが起こりそうな、壮大な謎を根底に感じながら見ているからだと思います。
不穏な空気を宿した作品、というのがこの映画のテイストと言えそうです。

様々な映画の中には、話が途中で大きく展開していくものが少なくありません。
よくあるのが、コミカルにスタートしてシリアスに収束していくものです。
このタイプは舞台演劇にも多く、むしろその流れを源流とした作劇術と言ってもいいくらいです。
ただ、あくまでもストーリー上のうねりであって、ジャンルが変わったと思えるほどのものではありません。

ジャンルレスな変化を見せる作品として有名なのが、ロバート・ロドリゲスの監督した「フロム・ダスク・ティル・ドーン」です。
ジョージ・クルーニーによるスタイリッシュなクライムサスペンスとして始まりますが、まさに一瞬の出来事から先は完全にモンスターアクションに切り替わります。
クエンティン・タランティーノの脚本で、彼は役者としても出演しており、いい味を出しています。

スプラッター映画の中には、冒頭の恋愛色や青春色が一変して血の惨劇となるストーリーが多くあります。
これは、幸せが一転して悪夢になる、という振り幅のある展開が起伏となります。
サム・ライミ監督のカルト的名作「死霊のはらわた」が象徴的です。

アレックス・プロヤスのダークで緻密な作風

ギリシャ人の両親を持ちエジプトで生まれ、オーストラリアで育ったアレックス・プロヤスが、映画監督として最初に注目を集めたのは、初の長編作品となった「クロウ」です。
ブルース・リーの息子であるブランドン・リーの事故死を乗り越えて完成された映画は、パート2以降製作陣を変えながらもシリーズ化されるヒット作になりました。
プロヤスはコマーシャルやミュージックビデオの監督をしていたこともあり、各シーンの画の作り方がクールだと注目されました。
長編の第二作目「ダークシティ」では、後の「マトリックス」よりも先に、ある設定を世に送り出しました。

彼は、文字通りダークな世界観を得意としつつ、SF好きらしい緻密さも持ち合わせています。
例えば「ノウイング」でニコラス・ケイジ演じるケストラーが初登場するシーンは、職場であるMITの講義をしているところです。
その講義内容は太陽系に関することであり、黒板には地球の磁場が太陽風から地表を守っていることが図解されています。
まさに映画の先行きを暗示する内容が示されていたわけです。
もちろんこれ自体は特別に珍しい手法ではなく、気づかずスルーしてもいいですし、トリビア的に楽しめる絶妙な隠し味と言えます。

作品情報

原題:KNOWING(2009)
監督:アレックス・プロヤス(Alex Proyas)
出演:ニコラス・ケイジ(Nicolas Cage) ローズ・バーン(Rose Byrne)

コメント