「ビューティフル・デイ」が本当に存在するのか知りたくなる


不思議な映画です。決してすっきりとカタルシスを感じることはありません。でも、余韻を残す映画です。マッチの炎のように、ほのかな温かさが漂っています。カンヌ映画祭で主演男優賞と脚本賞を受賞しました。

あらすじ

体の悪い母親と二人暮らしの男・ジョーは、幾度もポリ袋をかぶって自殺を試みるが成功しない。まともに働けない彼は、殺しなどの裏仕事を請け負っては報酬を得ていた。
新たな仕事は、街の有力者の娘を連れ戻すこと。13歳の娘・ニーナは、誘拐され数日前から家に帰っていなかった。簡単に済んだはずの仕事だが、ジョーの目の前で再び連れされてしまうニーナ。家に戻ったジョーは、殺されている母親を発見する。
母親の仇を討ち、ニーナを奪還し、真相を知るためにジョーは夜の街に出て行く。

出会うはずなかった二人

殺し屋と少女と聞けば、映画ファンなら「レオン」を思い浮かべることでしょう。リュック・ベッソンが監督し、ジャン・レノがタイトルロールのレオンを演じ、マチルダ役でナタリー・ポートマンが鮮烈なデヴューを飾った作品です。レオンを追い詰めるゲイリー・オールドマンの渋さも高ポイントです。

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ストーリーテリングの基本に、ギャップを作るというのがあります。無骨な殺し屋と可憐な少女はまさにギャップです。美女と野獣パターンと言い換えてもいいでしょう。
「美女と野獣」といえば、長らくディズニーのアニメ映画が筆頭でした。アニメながらアカデミー賞の作品賞に初めてノミネートされるなど、完成度の高さは目をみはるものがあります。ホールでのダンスシーンでは、ディズニーアニメが初めて3DCGIを本格的に導入したことでも話題になりました。
そして2017年に公開された「美女と野獣」の実写版もまた素晴らしい作品でした。基本的にはアニメ版を忠実にリメイクしていながら、実写ならではのリアリティと幻想的な物語が見事に融和した作品です。
ベル役を演じたのは「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニーで知られるエマ・ワトソンです。同時期に「ラ・ラ・ランド」の主演ヒロインをオファーされたものの、「美女と野獣」を選びました。一方で「ラ・ラ・ランド」に男性側で主演したライアン・ゴズリングは、野獣役のオファーを断っていたと言います。
厳密にはギャップというよりも獣と人との異種間恋愛の名作である「美女と野獣」は、フランスの小説が原作です。過去にもジャン・コクトーが映画化したり、2014年版ではヴァンサン・カッセルが野獣に扮するなど、度々映画化されています。

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身分違いは映画の華

可憐な少女と恐ろしい野獣だけでなく、高嶺の花のお姫様と庶民あるいは悪党が惹かれあう物語もギャップの楽しさです。

オードリー・ヘップバーンの代名詞的な名作「ローマの休日」は、好奇心から街に出てきたアン王女が新聞記者のジョー・ブラッドリーに出会います。ジョーはスキャンダルを手に入れようと、職業を隠しながらアンと遊び歩きます。
やがて惹かれあう二人ですが、別れが訪れます。

宮崎駿監督の初期名作「ルパン三世 カリオストロの城」は公国を乗っ取られたクラリス公女がルパンと出会います。ルパンも次元も五右ェ門も、不二子も銭形も皆、クラリスを助けるために立ち回ります。
ルパンはクラリスの心を盗んで去っていきます。

映画においてこの手の物語を選び始めれば、枚挙に暇がありません。

存在証明

「ビューティフル・デイ」の原題は「YOU WERE NEVER REALLY HERE」です。直訳すると、「あなたはここ実在したことがない」といった感じのニュアンスになります。「美しき日」という邦題とは随分と趣が異なってきます。
原題はダブルミーニング、あるいはトリプルミーニングになっています。一つはジョーの現在の収入源である殺しに関連しています。殺し屋はその存在を隠す必要があります。実行する時も、した後も、非合法ですから表舞台には立てません。
また、ジョーは湾岸戦争や幼少期のトラウマを抱えて、自殺願望があります。常に夢か現かわからないような生活を送っています。心ここに在らずといったところです。
ジョーだけでなく、誘拐から救い出すことになる少女ニーナの存在もまた儚げです。13歳は少女と大人の間ですが、そうした儚さとは別に、ジョーの中の幻想ではないかと思えるくらいに現実感の曖昧な存在です。
こうしたことが織り重なり合って、映画そのものがとても不思議な空気感を生み出しています。淡々とおこなわれる暴力も、非現実な感覚を掻き立てます。

ラストの読み解き方は人それぞれになることでしょう。全てが夢であったのか、それなら誰の夢だったのか。ひょっとすると見たもの全てが嘘だったのかもしれません。
ジョーとニーナが現実ならば、二人にはもう少し困難が待ち受けていることでしょう。これでハッピーエンドとは思えないのです。それでも、二人して幸せになって欲しいと思わずにはいられません。

美しい日々があるとすれば、映画では描かれなかった、これからのことになりそうです。

作品情報

原題:YOU WERE NEVER REALLY HERE(2017)
監督:リン・ラムゼイ(Lynne Ramsay)
出演:ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix) エカテリーナ・サムソノフ(Ekaterina Samsonov)

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