気づけば走り続けて終わっていた「マッドマックス 怒りのデスロード」


映画の世界におけるカーチェイスは、かなり古い時代から存在しています。
レースものも数多く作られてきましたが、この作品ほど最初から最後まで走り続けることに終始する映画も珍しいのではないでしょうか。
それでいてドキドキワクワクも止まらないという快作なのです。

あらすじはあってないようなもので、カーチェイスと呼ぶにはスケールが大きすぎる勢いと映像の迫力を楽しむ映画です。
ネタバレありでラストまで記しているのでご注意ください。

あらすじ

冒頭でマックスはいきなり捕えられる。
彼を捕えたのは水源をほしいままにして独裁コミュニティーを築いているイモータン・ジョーとその軍団。
この世界の病に侵されて死期の迫る軍団のドライバー兼メカニックであるナックスの、輸血袋として吊るされてしまっているマックス。

そんな時、女戦士長のフュリオサが反旗を翻す。
フュリオサはジョーの子供を産むためだけに囲われている女たちを連れて、戦闘装備の大型トレーラーで逃げ出したのだ。
すぐに追いかけるジョーたち。
その中にはナックスもいて、マックスは彼の輸血袋であるため、車体に吊るされていくことになる。

追いつかれそうになりながらも逃げ続けるフュリオサたちは、途中の戦闘を通してマックスとナックスと行動を共にすることになる。
マックスは自己中心的に逃げようとするだけであり、ナックスは洗脳的にジョーに心酔していたものの、二人ともやがて女たちに味方して、共にフュリオサの故郷で緑の生い茂るという地を目指すことにする。

やがてその場所にたどり着いてかつての仲間に会うフュリオサだが、緑の地はとっくに汚染されてしまっていた。
絶望から立ち直り、仕方なくジョーの砦から遠く離れた地を目指そうとするフュリオサたちだが、マックスは逆に砦をジョーから解放してそこにある水や緑を手に入れるべきだと言う。
彼らは再び道を戻り、砦を目指す。
当然ながらジョーの軍団と鉢合わせ、最後の熾烈な追走劇が始まる。
フュリオサは命がけでジョーを倒し、ナックスは愛を知り身を挺して軍団を壊滅させる。

そして、人々は水源を解放され、新たなる英雄としてフュリオサを讃える。
その姿を見て、マックスは何処かへと去っていくのだった。

高評価を受けた理由

「マッドマックス 怒りのデスロード」はなぜここまで高評価を得たのでしょうか。
ただ走り続ける120分でありながら、話はどんどん展開していきます。
振り子高跳びとでも呼ぶべき装置に代表される斬新な追撃方法はスピード感を落とすことなく、緊張感のあるカーチェイスを見せてくれます。

現実世界では世紀末を過ぎてなお、いずれ荒廃した世界がやってくるという終末思想が消えることはありません。
むしろその危惧はどんどん深まっていると言ってもいいでしょう。
その不安を煽るのではなく、予想しやすい近未来としているところが、設定にリアリティを持たせています。
とにかくストーリーは単純明快で、独裁者の手を逃れて約束の地を目指すのみです。
敵が仲間になったり自己犠牲を厭わない人々の戦いなど、ヒロイックな物語には欠かせない展開も満載です。
各所で今世紀を代表するSF作品のベスト1にまで選ばれているのはさすがにどうかと思わなくもないながら、ベスト10に選ばれる分には全く異論のないところです。

参考までに、「マッドマックス 怒りのデスロード」の原題は「MAD MAX FURY ROAD」と言います。
fury は怒りのレベルがかなり高い状態で、狂気をはらんだ怒りなので激怒と直訳されることも多い単語です。
怒りのデスロードと意訳したのも悪くはありませんが、多少B級感が強くなってしまっていて損している気もします。

主演の二人のハマり具合

女戦士長のフュリオサを演じるのはシャーリーズ・セロンです。
女優活動の当初はモデルという肩書きからルックス面ばかりが目立っていたものの、体を張った役作りも厭わずに「モンスター」アカデミー賞主演女優賞を獲得する演技派になりました。
今作でも丸坊主に戦士の特殊なアイメイクを施して、一見しただけでは彼女が演じているとは思いもよらない姿になり、片腕までなくすなりきりぶりです。

タイトルロールであるマックスを演じるのは、トム・ハーディーです。
最近の役ではヴィランの主役を演じた「ヴェノム」が印象深かったです。
マックスもヴェノムもはまっていますが、さらに鮮烈だったのが「ダークナイト ライジング」でバットマンを追い詰めるベインの演技ではないでしょうか。
図らずも今作のマックスと同様、口元に枷をはめられているかの外見は異様であり、あの野太い声と相まって、圧倒的な悪役感を醸し出しています。

シリーズの生みの親ジョージ・ミラー

監督のジョージ・ミラーはこれまでの「マッド・マックス」シリーズを監督してきた、正真正銘の生みの親です。
この映画のように70年代や80年代のカルト寄りの作品がリメイクされることも増えていますが、中にはオリジナルに遠く及ばない完成度のものもあります。
今作はリメイクではなく新作であり、下手をするとタイトルだけ使った全くの別物と非難をされてもおかしくないような展開を見せます。
それをしっかりと根底に世界観を残しながら今の時代の映画へと昇華させているのは流石の一言です。

これだけ殺伐とした映画を撮りながら、一方で子豚が奮闘する「ベイブ」をプロデュースして、続編では監督もしているレンジの広さに驚きます。
また、ペンギンたちのCGアニメ「ハッピーフィート」も監督しています。
ただしこの作品は少々曲者で、ディズニーやピクサーの作品のテイストで始まりながら、恐ろしくブラックな展開へとなだれ込んでいきます。
子供に見せたらトラウマになるのではないかと思わずにいられないレベルで、「マッド・マックス」の監督らしいと思ったものです。

ジョージ・ミラーはオーストラリア出身の監督です。
オーストラリアの監督といえば「ムーラン・ルージュ」などで知られるバズ・ラーマンも有名です。
役者では、同国出身の女優として初めて米アカデミー賞の主演女優賞を「めぐりあう時間たち」で受賞したニコール・キッドマンがいますし、同じく米アカデミー賞で主演男優賞を「グラディエーター」で受賞したラッセル・クロウもいます。

参考までにこの映画の主なロケ地は、ナミビアの砂漠地帯となっています。

作品情報

原題:MAD MAX FURY ROAD(2015)
監督:ジョージ・ミラー(George Miller)
出演:トム・ハーディー(Tom Hardy) シャーリーズ・セロン(Charlize Theron)


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