死期が迫り家族と過ごすことを選んだエージェントが再び殺しの任務に就いたのはなぜか。仕事と家族、どちらが大事かという命題が世界共通であることを知らしてくれる映画です。渋みを増すケヴィン・コスナーがリュック・ベッソンのストーリーでいい味を出します。
ラストまでのネタバレありで記してあります。細かな会話のやり取りなどを楽しむ作品ではありますが、情報を入れずに作品を楽しみたい方はご注意ください。
あらすじ
CIAのエージェントだったイーサンが、別居している妻のクリティンと娘のゾーイに5年ぶりに会うためパリにやってくる。暗殺も厭わないCIAエージェントのイーサンだが、長期にわたる海外生活で妻子をかえりみることがなかった。ゾーイとは幼い頃に別れて以来、一年に数回一方的なメールを送る程度でコミュニケーションが取れていない。
多忙なクリスティンはイーサンの来訪を歓迎しない。しかしイーサンは死の病に冒されており、遺言書の手続きを終えるのを目の当たりにすることで、彼の望みであるゾーイとの再会を許す。
高校から下校するゾーイを迎えたイーサンはプレゼントに自転車を持っていく。突然現れたイーサンを父と呼ばず、彼氏のヒューと帰ってしまう。それでも夕飯に手料理をご馳走すると告げるイーサンだった。
夕飯の買い出しをしていたイーサンに接触してきたのはCIAの女エージェントであるヴィヴィ。ヴィヴィは核兵器などを扱う武器商人の大物ウルフを殺せと迫る。謎の多いウルフだが、唯一イーサンが過去の作戦でウルフの顔を目撃していること、そして死期迫るイーサンであれば怖いもの知らずで作戦に当たると見込んでのことだった。
仕事よりも家族が大事だと気付いたイーサンは引き受ける気が無かったものの、病気に効果が期待できる未承認の試験薬をヴィヴィが持っていることで、家族と過ごす時間を増やせるかもと心変わりする。
ウルフの居場所を探るために、ヴィヴィの情報でウルフの部下であるアルビノの会計士と思われる男を襲撃するイーサンだが彼は何も知らなかった。それでもヴィヴィは約束通りイーサンに薬を注射した。
夕食の時間をとうに過ぎて帰宅したイーサンに、また約束を破ったと失望する妻のクリスティン。イーサンは特別な薬を処方する医師に会っていたと告げ、クリスティンは彼を許し翌日から3日間の出張中、ゾーイの世話をイーサンに任せることにする。
その夜、薬の激しい副作用に襲われ苦しむイーサン。
ヴィヴィはイーサンに今回の作戦の報奨金として1500万円を前渡しし、次の手段としてウルフの運転手を務めるハイヤー会社の社長ミタットから情報を聞き出せと命じる。ミタットと拉致して口を割らせようとしているイーサンの元にゾーイが喧嘩をしたと学校から電話がかかる。
ゾーイを引き取った後、イーサンはミタットから聞き出した会計士の元へ行くが、そこに先ほど別れたゾーイから電話があり、思い出の遊園地で会いたいと言われ作戦を中止する。
久しぶりの娘との語らいを喜んだイーサンだが、友達と勉強すると別れたゾーイの予定が嘘で、夜遊びに出たことを知って連れ戻しに行く。クラブで男たちに襲われそうになっていたゾーイを救い出すイーサン。
イーサンはゾーイに自転車で帰ってくれないかと言うが、ゾーイは自転車に乗れなかった。教えてくれるはずの父親がいなかったと責めるゾーイに対して、イーサンは自転車の乗り方を教えるのだった。
ようやく会計士に行き着いたイーサンは、その情報からアルビノの居場所を知る。夜、家に戻ったイーサンにゾーイは、ヒューにプロムに誘われたと話す。嬉しいけど踊れないというゾーイにダンスを教えるイーサン。その様子を出張から戻ったクリスティンが見つめている。
アルビノを張っていたイーサンは、彼がウルフと合流する現場を押さえる。そしてアルビノとウルフが乗る車を追いかけクラッシュさせる。ウルフとアルビノが逃げ出す中、車に取り残された運転手のミタットを救い出すイーサン。
その後、ウルフたちを追い詰めるイーサンだが、寸前のところで薬の副作用が出てしまいアルビノを倒したところでウルフを取り逃がしてしまう。
プロムの夜、ヒューの父親を紹介されたイーサンは、同席していた取引相手のウルフと偶然の再会を果たす。互いが密かに牽制する中、ついに銃撃戦が始まってしまう。妻を守りながら戦うイーサンはついにウルフを追い詰めるのだった。
海辺の別荘で療養しているイーサンの隣にはゾーイと、そしてクリスティンがいる。その姿を遠くから見ているヴィヴィであった。
原案と共同脚本にリュック・ベッソン
リュック・ベッソンの最初の世界的ヒットは間違いなく「グラン・ブルー」でしょう。現在はアプネアあるいはフリーダイビングと呼ばれる素潜りを世界に知らしめたジャック・マイヨールとエンゾ・マイオルカをモデルにして、イルカとのふれあいや海の美しさなどを映し出した作品です。
一方で、リュック・ベッソンが本当の意味で世に出たのは、「ニキータ」と「レオン」によるところが大きいと言えます。どちらも殺し屋の物語であり、少女が絡んだものです。以降、「タクシー」シリーズや「トランスポーター」シリーズなど、派手なアクションものも書いて量産するなど、フランス屈指のヒットメーカーとなりました。
「ラストミッション」は父と娘、つまり男と少女がキーになるという、如何にもリュック・ベッソン印の殺しの物語です。
主人公のイーサンは脳腫瘍を患って死が迫っています。敏腕ではあるものの、CIA内で出世はできませんでした。一所懸命に仕事をしていたものの、家族を顧みずに愛想を尽かされています。
ターゲットはかなりの大物で、CIAでも長年手を焼いてきたほどです。それを追い詰めていくのですから緊迫感はありますし、ダイナミックさもあります。ところが、この映画の面白さはそこだけではありません。
イーサンは娘のゾーイと昔のように仲良く過ごしたいのに、年頃の娘は5年も放ったらかしにされていた父親に反発します。それでなくても反抗期な年頃なので扱いづらいことこの上ありません。
イーサンがターゲットを追い詰めていくサスペンスフルなシーンと、ゾーイに振り廻せれて困惑する様子がコントラストになっています。
何より、ハイヤー会社の社長でウルフの組織とも関係しているミタットとのやりとりは、同じ年頃の娘を持つ父親同士として共感したり、アドバイスをもらったりと、まるでパパ友のようです。この辺りの掛け合いがコミカルで、ホッとするアクセントの役割を果たしているのです。
今作でベッソンは監督をしていません。監督のマックGは、映画版の「チャーリズ・エンジェル」で知られています。思えば「チャーリズ・エンジェル」もまたアクション満載でスパイ的な活動とコミカルさといったように本作に通じるものがあります。
イーサンの住宅事情と病気のこと
この映画の中には嘘のような本当の話が混ざっています。
一つはイーサンがパリに持っていた別宅についてです。あらすじでは触れていませんが、イーサンが久しぶりにこの家に帰ってくると見知らぬ黒人の大家族が暮らしています。イーサンは警察に相談に行きますが全く取り合ってもらえず、強制的に退去させたらイーサンの方が牢屋に入ることになると告げます。
なんとも図々しい一族が居座っていると思ったのですが、実はこれ、フランスで法的に認められていることなのです。簡単に言えば、冬の間に2日を超えて暮らしている部屋からは4月になるまで人を追い出せないというものです。
日本ではなかなか考えられないことではあるものの、長期間空室にしているくらいならお金をとって正式に人に貸したほうがいいということになります。結局この家族とは暖かな心の交流を結ぶことになるとはいえ、カルチャーショックではありました。
そしてもう一つは、イーサンの冒された死の病であるグリオブラストーマについてです。日本名では膠芽腫と書いてコウガシュと読みます。脳の神経細胞の部分に悪性の腫瘍ができてしまうもので、多くは1年ほどで死に至るばかりか、全摘はほぼ不可能とされる病気です。
映画の中で、イーサンはクリスマスを迎えられないだろうと言っています。冬の話なので、まもなく死んでしまうわけで、家族に会いに行ったり、未認証薬を試す理由はそこにあります。
終わり近く、家族といるのはクリスマスのようなので、少なからず薬の効果があったのかもしれません。
そのラストで、ヴィヴィがイーサンの様子を遠くから見つめています。その瞳はいつものように冷めているようですが、ひょっとすると彼女は以前からイーサンを好きだったのかもしれません。イーサンは気づいていなくても何かの作戦で関わったことがあるのかもしれません。
作品情報
原題:3 DAYS TO KILL(2014)
監督:マックG(McG)
出演:ケヴィン・コスナー(Kevin Costner) アンバー・ハード(Amber Heard)
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