「フェリスはある朝突然に」学校より大切なことが街にあふれていると知る


フェリスという学生が学校をサボって、恋人と親友の三人でシカゴの街へ飛び出した1日を描いています。大きな事件は起こらないものの、まさに青春としか表現できない魅力が詰まった1日となるのでした。

ラストまでネタバレをしたあらすじとなっているので鑑賞前に知りたくない人はご注意ください。

あらすじ

高校生のフェリスは仮病で学校を休む常習犯。今日も9度目の仮病を画策してベッドで寝込んでいる。傍らの両親は彼を信じて、心配しながら出勤していく。ただ一人、妹のケイティーだけは真実を見抜いていたものの、両親には取り合ってもらえなかった。
家に残ることに成功したフェリスは、車を調達するために友人のキャメロンに連絡する。キャメロンはうつ気味で死にたがり、今朝もベッドから起き上がれずにいた。

学校では主任のルーニー先生がフェリスの仮病を疑い、尻尾をつかもうと躍起になっている。生徒たちはフェリスの病気を信じ、しかも話に尾ひれがついてフェリスは重病人として扱われていてカンパが始まり、いつしか話だけが一人歩きして町中がフェリスという少年の回復を祈るのだった。
キャメロンの家にやってきたフェリスは、ガールフレンドのスローンを連れ出すためにキャメロンをスローンの父親役にして忌引きの電話を学校にかける。
キャメロンの父親が命よりも大事と公言するスーパーカーを車庫から出して、スローンを迎えに行くフェリス。
こうしてフェリスとスローン、キャメロンの三人は学校をサボって街へと繰り出す。

フェリスは巧みに人々を欺きながら高級レストランで食事をし、野球観戦をし、パレードで山車の上に乗って歌いだす始末。スローンはフェリスの様子を楽しむが、キャメロンはハラハラオロオロしっぱなしで全く楽しめない。
その頃、ルーニー先生がフェリスの留守宅に侵入しようとして悪戦苦闘していたが、ついに家の中へ入る。確かにフェリスは不在だったが、代わりに妹のケイティーと鉢合わせてしまい強盗と間違われ、ほうほうの体で逃げ出す。

一通り楽しんで帰ろうとしたフェリスたちだが、預けておいた車が勝手に乗り回されていたため走行メーターが跳ね上がっており、キャメロンは父親にバレてしまうとパニックになる。
フェリスたちはメーターに細工をしようと試みるが失敗し、あろうことか車を崖下に落として大破させてしまう。パニックを通り越して大爆発していたキャメロンだが、冷静になると両親に抑圧されてきた自分を省みて、自分を変えるために踏み出す決心をする。
そんな友人の様子を見たフェリスは、両親の帰宅時間が迫っているのに気づいて大急ぎで家へと戻る。

間一髪で間に合ったフェリスがベッドに潜り込んだところで両親が部屋に入ってきて、寝ている息子を見て安心するのだった。

テーマはストレート

フェリスがいきなり観客に向かって語りかけてくるという第四の壁を破るタイプの映画であり、語りに呼応するテロップも入ることから、かなりポップな導入となっています。
だからと言って、ビジュアル重視の物語ではなく、描いているテーマは思春期を終えようとする若者たちの葛藤やエネルギーの発露など、まっとうな青春ムービーとなります。

フェリスには相思相愛の恋人であるスローンがいます。
演じるミア・サラは直前に「レジェンド / 光と闇の伝説」でヒロインデビューするとともに本作でも美しい姿を映し出すのでした。
「レジェンド / 光と闇の伝説」は若きトム・クルーズがまっとうな西洋ファンタジーの世界で活躍する少し珍しい作品です。「卒業白書」で若手俳優のスター候補に躍り出たトム・クルーズが「トップガン」「レインマン」などを撮影する直前に主演ました。
さておき、ミアはフェリスの型破りなところを心底楽しむとともに、頼もしくも思っています。美しさの中に母性を含ませていて、かなりのハマリ役と言えます。

ある意味フェリス以上にフィーチャーされているのが、親友のキャメロンです。両親の締め付けと放任が全て悪い方向に行った末に精神を病み始めている役になります。
正反対に物事を楽観視するフェリスに振り回されながらも、自分に欠けていたものに気づいていきます。彼が1日の冒険を終えて、その経験から成長する様が本作のテーマを一番明確に表しています。

フェリスの両親は息子を溺愛していて、彼の嘘を全く見抜けません。フェリスは両親の愛を感じながらも、人一倍早い自立を始めようとしています。
妹のケイティーは要領のいい兄に嫉妬していて、自分ばかりが損をしていると嘆いています。しかし、結局は十分に幸せものだと悟ってフェリスの危機を救うのでした。

友情と愛情、家族の絆など、若者を取り巻く様々な心情が詰め込まれつつ、堅苦しさの一切ない明るい仕上がりになっている名作です。
一時期、続編が構想されて大学時代か就職後のフェリスを描くという案がありました。計画は頓挫したものの、フェリスを演じたマシュー・ブロデリック自身はフェリスのその後を描く必要はないと考えていたので、さほど落胆はしなかったようです。

作劇の妙

前段で書いたように、ストレートな内容の青春譚をストレートに表現するのではなく、80年代らしいポップなノリに包んでいるのが本作の特徴です。
監督したのは「ホーム・アローン」のシリーズを生み出したことで知られるジョン・ヒューズです。本作の前に「ブレックファスト・クラブ」を撮るなど、監督としての評価も高い人です。
しかし、彼の本領はプロデュースと脚本であって、前述の「ホーム・アローン」のシリーズだけでなく、質の高いコミカルドラマを量産しています。
特にプロデューサーと脚本家として参加した「恋しくて」は、ジョン・ヒューズの得意とする学園内の人間模様が絶妙で、ドラム少女のメアリー・スチュアート・マスターソンが鮮烈な印象を与えます。

名脚本家であるヒューズは、シンプルな物語を魅力的に見せてくれます。紐解けば家のベッドに始まって家のベッドに戻るという作りは、オーソドックスな冒険物語のスタイルです。
チルチルとミチルが冒険するモーリス・メーテルリンクの童話「幸せの青い鳥」もスタートとゴールは同じ場所であり、多くの経験を積んで元の場所に戻った時には子供達が精神的な成長をしています。

作品数からすれば脚本が本業のジョン・ヒューズではあっても、わずか8本という監督が不向きだったわけではありません。名作を生み出したのは前述の通りですし、今作の中でも現場を仕切る監督として見事な柔軟性を発揮しています。
後半のパレードシーンで町中の人が踊ったり、建築現場の労働者やビルの清掃員がリズムに乗っている場面があるのですが、実はこれは撮影用のキャスティングではありません。
パレードの音楽に合わせて周りの人が踊っているのを見たヒューズが、とっさにカメラマンと抑えていたショットが使われているのです。
わずかなカットとはいえ、映画の雰囲気を端的に表すショットとなっています。

数々の佳作を生み出し続けたジョン・ヒューズですが、59歳という若さで2009年に心臓発作で亡くなってしまいました。

スターになる前の出演

映画の後半、フェリスの妹ケイティーが警察署に行った際に出会う麻薬の常習者を、若き日のチャーリー・シーンが演じています。
チャーリー・シーンは名優マーティン・シーンの息子であり、兄は代表作をいくつも持つエミリオ・エステベスです。チャーリー自身も本作に前後して「プラトーン」に出演して名を上げ、「メジャー・リーグ」「ホット・ショット」などに立て続けに出演し、軒並みヒットさせています。
その後、麻薬問題などいくつかの事件を起こして、映画さながらに波乱万丈の人生となります。
一見するとチャラい雰囲気のボンボンに感じられるかもしれませんが、演技に対しては真剣なところがあり、今作でクスリの影響下にある人物を演じるにあたっては、もちろんリアルな服用をするわけはなく、代わりに48時間にわたって不眠の状態で撮影に臨みました。
今でこそ、あっ、とすぐに気づくチャーリーの姿でありながら、この時点ではカメオ出演などではなく、これくらいの配役ポジションだったということなのでしょう。

原題にある day off は休日、とくに病気などで休んだ日のことです。日本語にはしっくりくる言葉が見当たらないものの、病欠の1日といった感じになります。
ただ、突然の1日どころか、今日で9回目のサボりとなるフェリスなのでした。

作品情報

原題:FERRIS BUELLER’S DAY OFF(1986)
監督:ジョン・ヒューズ(John Hughes)
出演:マシュー・ブロデリック(Matthew Broderick) ミア・サラ(Mia Sara)


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